緊急事態の中では「朝令朝改」でもいい

―― 今回の新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、契約形態にかかわらず、全社員がより早く完全な在宅勤務に切り替えることができるよう、人事制度を変更されたそうですね。

小出 このような緊急事態の中にあっては、「朝令暮改」ならぬ「朝令朝改」でもよいぐらいだと思っています。状況はあまりに刻々と変わっています。

 多くの日本企業は緊急事態宣言が出された後、リモートワークや在宅勤務を推奨しつつも、必要な場合は社員の方がオフィスに出社するケースもあると思います。しかし、当社は早々とオフィスをすべて「ハードクローズ」し、どんな理由があろうと一切入館できない状態にしました。原理原則でいえば、お客様先への訪問も禁止です。お客様に感染させてしまう恐れもありますし、その逆も考えられます。人と人との接点を極力減らすことが重要だと考え、我々は緊急事態宣言が出される前にそうした措置を取りました。

 なつ印業務も極力電子サインに変えました。法務部門や対官庁の書類など、内容によってはどうしてもなつ印が必要になる場合があります。その際は、特別にレンタルオフィスを借りて対応するなど、いろいろな仕組みを考えないといけません。

 一番よいのは、国内で一斉にこれまでのすべてのなつ印業務を電子化することですが、そう簡単には変えられません。今後、いずれはすべてを電子サインにすることを見越して、状況を見ながら変えていくことが大事だと思います。

全社員が就業時間の1%をボランティア活動に充てる

2019年12月、ボランティア活動として、ひとり親家庭向けのクリスマスカードを準備する社員たち
2019年12月、ボランティア活動として、ひとり親家庭向けのクリスマスカードを準備する社員たち

―― 新型コロナ対応の一環で、子どもたちが安心・安全に放課後を過ごすための活動を行っている「放課後NPOアフタースクール」にも支援をされています。

小出 当社には創業以来、ボランティアも広く浸透しています。セールスフォース・ドットコムでは創業当時より、「1-1-1モデル」と呼ぶ、ビジネスと統合した社会貢献を行っています。1-1-1モデルとは、製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を活用してコミュニティに貢献するという社会貢献モデルです。これに基づき、普段から我々は従業員の就業時間の1%をボランティア活動に充てています。

 就業時間中のボランティア時間は、すべてデータで可視化されています。例えば私の秘書が就業時間の1%をボランティア活動に充てられていなかったとします。すると私ではなく、アメリカのCEOから、直接本人にメールが届くのです。

 「あなたは目標の3割しかボランティア活動をできていないようですが、何か理由があるのでしょうか。上司の小出がボランティア活動をする時間を取らせてくれないのでしょうか。それとも家庭に何か問題があり、ボランティア活動の時間が取れないのでしょうか」といった細かいコミュニケーションが開始されます。

 このように、全社員が積極的にボランティアに取り組めるよう会社が支援するという文化が根付いているので、「今は社会全体の中で誰がどのように困っているのだろう」ということを察知するアンテナを全社員が立てています。

 トップも社員の意見をすくい上げてボランティアを推進していく環境が定着しています。今回のNPO支援も、新型コロナ感染が起きたために自分たちが特別に社会貢献活動をしているという意識は、社員たちにはほとんどないと思います。今までやってきたことの延長に、当然のようにコロナ対策も含まれるという感じでしょう。

2019年6月、同社の和歌山県白浜町にあるオフィスにて。オフィス犬のトーマスとともに、地元の学生を対象に、命の大切さを伝えるボランティア活動を実施
2019年6月、同社の和歌山県白浜町にあるオフィスにて。オフィス犬のトーマスとともに、地元の学生を対象に、命の大切さを伝えるボランティア活動を実施

―― 今回の支援はトップダウンではなく、ボトムアップだったのですか?

小出 両方です。経営層も支援活動を推進すべきだとの考えを持っていますし、社員側も積極的に情報を探して自発的に提案してきます。

 平時における事例でいうと、例えば、我々が会議参加のためにアメリカに行ったときのこと。誰かが「今日、養護施設でペンキ塗りをするから、みんなで一緒に行こう」と提案し、参加者全員で養護施設に行くこともありました。会議場が海岸沿いにあるときには「明朝、全員で5時に起きて砂浜を清掃しよう」となることもあります。セールスフォース・ドットコムでは、そういうボランティア活動が日々行われているのです。

―― ボランティア活動を業務時間内に行わなければいけないという企業はあまり聞きません。ボランティア活動を義務化している理由を教えてください。

小出 理由はシンプルです。当社が創業以来、「社会とともに成長しない限り、永続的な成功は収められない」と考えているからです。もしも株主だけを向いて利益ばかり追い求めて仕事をしたら、最終的には海洋を汚染することになる危険性もあるでしょう。効率を追うだけならば再生可能エネルギーではなく石炭を使えばいいという議論になってしまうと思うのです。

 でもやはり企業は社会とともに成長するからこそ、100年、200年と、継続できる経済活動をして成功を収められる――、このように考えるDNAが当社には創業以来あります。それが揺るがないので、新型コロナウイルスが来ようと何が来ようと軸はぶれないと思います。


※ 次回は、コアバリューの4つ目である「イクオリティ」について詳しく伺います。

小出伸一
セールスフォース・ドットコム会長 兼 社長
小出伸一 1958年、福島県生まれ。大学卒業後、1981年、日本IBMに入社。米国本社戦略部門への出向、社長室長、取締役などを務めたのち、2006年日本テレコム(現在ソフトバンク)に入社し、ソフトバンクテレコム(現ソフトバンク)副社長兼COO(最高執行責任者)に就任。2007年12月、日本ヒューレットパッカード代表取締役社長に就任し、2014年4月、セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)に就任。2018年6月から三菱UFJ銀行・社外取締役、2019年3月から公益財団法人スペシャルオリンピックス日本の理事に就任。

構成/小田舞子(日経xwoman編集部) インタビュー写真/稲垣純也