世界130カ国以上に支社を置き、企業向けのエンタープライズ・アプリケーション・ソフトウエアにおけるマーケットリーダーであるドイツのSAP。約1600人の社員を擁する日本法人SAPジャパンで人事部門を統括するのが常務執行役員 人事本部長の石山恵里子さんだ。変化の激しいITビジネスでは、どんな人材戦略が練られているのか。ダイバーシティ&インクルージョンはITビジネスに何をもたらすのか。SAPはどんな人材を求めているのか。自身の転職経験を交えながら、語っていただいた。(聞き手は平田昌信・日経xwomanプロデューサー)

SAPジャパン 常務執行役員 人事本部長の石山恵里子さん
SAPジャパン 常務執行役員 人事本部長の石山恵里子さん

SAPへ転職した当初は毎日が「筋トレ」状態

―― 大学卒業後、最初は日本の企業に入社されたのですね。

石山恵里子さん(以下、石山) 1992年に新卒で日系IT企業に入社し、人事部門に配属されました。当時、女性はSE(システムエンジニア)、営業、インストラクターの3つしか選択肢がなく、教育分野のSEという希望で入ったら配属先は人事部門でした。

 最初、研究所に新たにできる人事部門の立ち上げメンバーになりました。その後、90年代に製造業のアジア進出が一気に始まり、本社側に国際人事部門が新設されるというので、ちょうど3年目のローテーションで異動し、アジア地域の担当になりました。日本から数百人単位でアジアの国々へ送り込み、その駐在員たちをサポートするのが仕事でした。

 そのうちバブル崩壊の影響により、アジアの工場をたたみ、日本人を国内に戻すことになりました。その頃になるとグローバル人事部門という名称に変わり、アジアから撤退したものの、グローバル企業を目指す機運が高まり、ヨーロッパを担当することになりました。ヨーロッパの人たちに本社の活動を知ってもらうことや人材育成を行いました。

 次にコーポレートユニバーシティ(企業内大学)に異動しました。グループ全体のナレッジを結集し、業界をリードする高度人材の育成を行うこのコーポレートユニバーシティの中で経営人材育成の機能やプログラムをつくるメンバーになりました。

 このとき早稲田大学ビジネススクールに通い、いろんな人と出会いました。世の中にはおもしろい人がたくさんいるものだと感じました。

 それまで国際人事部門を経験し、経営者育成では海外のグループ会社のメンバーに会ったりして、世の中の広さを隣では見ていたのですが、グローバル経営などをビジネススクールで習ってみると、「実際に自分で経験してみなければ本当のことはわからない」と感じるようになってきたんです。

 そんなときSAPジャパンへの転職の話があり、転職するならラストチャンスかなと年齢的なことを考えてしまいました。面接を受けてみると、お会いしたメンバーの方の印象もよかったですし、「グローバルマネジメントをやっている会社だからいいチャンスかな」と考えて、SAPへの入社を決めました。

―― SAPジャパンでも人事部門に入られたわけですね。

石山 SAPの雇用形態は完全にジョブ型(職務内容を明確に定義して採用)で、ポジションに空きがなければ、そのポジションにはなれません。転職したときは、「HR(Human Resources)ビジネスパートナー」のポジションの空きがあり、そこに入りました。

 COO(最高執行責任者)のもとでHRビジネスパートナーを2年、次に営業部門のHRビジネスパートナーを3年やり、5年過ぎたところで「HRダイレクター(人事本部長)」のポジションにチャレンジして現職に就きました。「HRダイレクターになることはすなわち執行役員になることだ」と後から気づきました。2021年3月のことです。

――会社から、執行役員に指名されたわけではなくて、そのポジションに執行役員がひも付いていた、ということですね。

石山 はい。そうです。

―― SAPへ転職し、働き方や仕事環境について、どんな感想を持ちましたか。

石山 仕組みそのものは意外と同じなのですが、やり方がまったく違います。意思決定の仕方、スピード感、変化への対応。ですので、転職した当初は「筋トレしている」という言い方をしましたが、入社して半年ぐらいは「使う筋肉がまったく違う」という感じがしていました。

 SAPではビジネス戦略が重要視され、しかもそれがグローバル化されています。ビジネス戦略がまずありきで、それを実現するために各ファンクション(職務)のやるべきこととその期間が決まっています。戦略を実現するためにいっせいに実行し、誰一人として手が抜けません。余剰がないので全員が責任を果たさなければいけないことを実感しました。

「SAPジャパンに入社して半年ぐらいは、使う筋肉がまったく違う、という感じがしていました」(石山さん)
「SAPジャパンに入社して半年ぐらいは、使う筋肉がまったく違う、という感じがしていました」(石山さん)