「女性登用の壁」は、人材育成の壁そのもの
羽生 ここで資料をお見せしたいのですが、（「カゴメ、ポーラ トップが語る日本に残る男性社会の空気」で紹介した）先ほどのアンケート結果の続きです。「組織で感じる女性が働くうえでの障害や壁は何ですか？」という質問に対して、約6割が「ダイバーシティ経営の効果が理解されていない」で第1位でした。次いで「男性同士の忖度文化に違和感がある」「女性同士のネットワークが弱い」などが挙げられました。及川さん、これは「働く女性の、あるある」ですよね。
及川 「あるある」ですね。男性による誤解もあります。例えば、アンケート結果の表の中に「『女性同士は仲が悪い』などの偏見がある」とありますが、男性同士だってみんなが仲がよいわけではありません。女性が仲が悪いのではなくて、人間にはどうしても相いれない人が性別問わずいるということでしかないんです。そういう事実をきちんと見たほうがいいと思います。
これまで女性に与えられたチャンスが少なかったことは事実です。その理由は、上層部を男性が占めていて、どうしても目に付きやすいのが自分と一緒に仕事をした男性の人たちだからです。例えば、ブルーワーカーの仕事を女性が担って、意思決定は男性が担うという時代が長かったからどうしても女性がリストに載ってこないという実態があると思います。
今、世の中の企業が思っている「女性登用の壁」というのは、「壁」ではなくて登用する側の「思い込み」なのではないでしょうか。その思い込みを一旦取り除いて、トライする場を与えるとか、サポートしてあげるとか、そういうことが非常に大事なのだと思います。
「女性登用ができない」と言うことは、実は「当社には人材を育成する環境が整っていません」「社員能力の拡張ができません」と宣言しているようなものです。これから先の社会では、そういうスタンスの企業は世の中からそう思われてしまいます。日本は意志決定者の女性比率は2％で、海外は3割に近づいている。このギャップがグローバルでの戦い方における大きな差になってくるのではないかと感じています。
―― 寺田さん、今のお話で、カゴメの女性社員の意識は変わってきていると思いますか？
寺田 働きやすい環境作りを進めると同時に、ダイバーシティを推進するために全国的な委員会を立ち上げて参画するようになったり、女性がリーダーになって活動をしたりなど、様々な施策を張り巡らせました。子育て中の女性の営業担当者は、今までは内勤が多かったのですが、今は育休明けからすぐに外勤営業に復帰するというかたちが当社でも一般的になってきています。「女性には無理だ」という考え方は、もう当社にはなくなってきています。
―― 全国の支社でも、本部社員が中心になってダイバーシティについて勉強する会を開催しているのですよね。
寺田 それに加えて大事なのは、管理職を目指そうとする女性の動機付けです。そこがまだ私どもの会社は弱かったので、そこは女性役員が中心となって塾を開いています。とはいえ、私どもの女性管理職比率はまだやっと7％なんです。様々な施策を始める前は、なんと2％でした。決して定量的な数字だけが成果ではないにしても、この数字をこれから猛烈に上げていく環境づくりはできていますし、多くの女性社員が課長を目指すようにもなってきています。
今、社会全体で、そのような意欲のある女性たちが増えていますよね。そういうこともプラスになっていると思います。
