「ヒト・モノ・カネ」から「ヒト・ヒト・ヒト」へ

―― さて次のテーマは、「グローバルで比較したときに、日本の『ジェンダー平等経営』の課題は? 変えるべき事は?」です。お二人はどんな課題があると考えますか?

池田 多様なものの見方を持ち、そのものの見方が経営にしっかりと届き、それが経営に生かされていくというプロセスが重要です。世の中で起きていることに関心を持ち、それに基づいて、企業でいえば事業、金融庁でいえば政策に「こんな影響がありえる」と言える人をしっかりと確保しておくことが大事だと思います。

 今回のCG改訂では「人的資本の投資」が大事だと思っています。「ヒト・モノ・カネ」という経営資源を表す言葉がありますが、今後は「ヒト・ヒト・ヒト」へシフトするかもしれません。いかに優れた人材を確保し、その人材を活躍させるか。それが企業の持続的な価値創造の源泉になっていると思います。

 具体的には2点ほどあります。1つはダイバーシティだけではなく、ダイバーシティ&インクルージョンと、セットであることが大切です。近年、多くの企業で多様な人材がそろい、人事制度の充実に力を入れています。しかしそれだけではなく、異質な同志を認め合い、刺激し合い、それぞれの強みを生かすインクルージョンとセットで初めて活性化されるからです。

 2つ目は、個々の社員の働きがい、ウェルビーイングをどういうふうに向上させるかがキーポイントです。昨年のJapan Investment Conferenceで興味深いデータが挙がりました。日本の女性が離職する主な要因は「育児と介護」というイメージがありますが、実際には子育てや介護を起因とする離職率は3割程度でした。それ以上に「キャリアの不満」が63%、「キャリアの停滞感」が49%と、子育てや介護に起因する離職を大幅に上回っていたというデータです。

―― これは経営者が「おっ!?」と思うデータですね。女性が辞めていくのは、育児や介護が負担になって仕事と両立できないからと考えるのがこれまでのステレオタイプでした。

 それらも大きな要因ではありますが、それ以上に個々のウェルビーイングに関する問題が大きい。しかも、それは女性だけの問題ではありません。米ギャラップの2019年調査によると、「日本の主観的ウェルビーイング」は26%で、主要7カ国(G7)中で最下位でした。企業の中長期的な成長を実現するには、多様な人材を集め、心身ともに健康で、仕事の納得感、同僚とのつながり、自己肯定感を高める必要があると言えるでしょう。

―― ダイバーシティで終わらせずに「&インクルージョン」のところが大事だということがよく分かります。人材の多様化を進めて終わり、ではないと。

池田 企業価値の向上というゴールに向けて何をすべきかから出発し、事業ポートフォリオとして今何を持っているべきかを評価することが大事です。そのためにダイバーシティが重要であり、かついろんな評価を入れた経営判断が必要だということですね。

 ですから、既存の決められた事業ポートフォリオに沿って馬車馬のように人を働かせてもうけようというのではなく、もうかるビジネスを冷静に見つけ出すために人を活用する。そこにダイバーシティ&インクルージョンの価値があるんじゃないかと思います。

―― 古い事業構造のまま馬車馬のように働いているだけでは何も変わらないんだというメッセージ、心強く感じます。

 本日たくさんのデータやご意見を伺ってきましたが、お二人に共通して思ったことは、女性比率を高めることは大切で、まずそこからやらなければいけませんが、それをやっておしまいではないということです。閉じられた箱の中に漂う停滞感を打破するため、いろいろな窓を開ける。そして風を通し、耳を傾ける。そういった経営の雰囲気がイノベーションを生み出し、利益につながる。それこそが「多様性の確保」だと感じました。

 私たち日経ウーマンエンパワメントでは、賛同してくださる企業の皆さんと一緒に勉強会でダイバーシティ経営の先進事例について討論したり、それを記事発信したりしています。「ジェンダー平等を、経営者の言葉に。組織の力に。」をスローガンに、皆様とともに前進していきたいと思います。

多様性確保の対応、御社は大丈夫? ダイバーシティ入門

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文/長坂邦宏、構成/羽生祥子(日経xwoman)