3歳児神話の誤解はホモサピエンスの歴史が証明

出口 地球上にホモサピエンスが誕生してからまだ20万年しかたっていませんが(ウイルスは何十億年も生きています)、そのうち19万年は定住生活をせずに移動生活をしていました。ホモモビリタス(移動するヒト)と呼ばれるゆえんです。ホモサピエンスは、きれいな泉が湧いているなどキャンプに適した場所を見つけると、男も女も全員で森に入ってその日の食料を集めます。その間、赤ちゃんや高齢者は1カ所に集めて面倒を見ていたのです。

 つまり、ホモサピエンスは集団保育で社会性を養ってきた社会的動物です。保育園に預けるほうがホモサピエンス本来の当たり前の姿なんです。母と子の1対1で育てる保育のほうがおかしいと、気づかなくてはなりません。

 つまり知識は力なんです。正しい知識がないと、「赤ちゃんはお母さんが抱っこして育てるのが一番いい」「子どもは3歳までは母親が育てるべきだ」などといった、根拠のない精神論や社会常識に染まってしまいます。ジェンダー教育では、こういった歴史的なファクトを教えなくてはなりません。

―― 子どもの教育においても、家庭内で男女間の差別があります。親や教師の中には、男の子には受験勉強を一生懸命させていい学校に入れようとするけれど、女の子には「ほどほどでいい」と女児に向かって言ってしまう人もいるようです。

出口 これも、戦後の工場モデルの中でつくられた「男は仕事、女は家庭」という意識が、いまだにアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)として教師や親の中に根強く残っており、それに引きずられてしまっているんですね。本来は性別にかかわりなく、本人の個性にあった教育を行うべきです。個体差は性差を超えます。

 それなのに、日本は教育後進国。例えば高等教育の就学率は153カ国中108位です。加えて高等教育における性差別が大きい。今だに女性は地元から出てはいけない、浪人してはいけないという考え方が色濃く残っています。