還暦でライフネット生命を開業し、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務め、1万冊以上の本を読破した「知の巨人」でもある出口治明さん。ジェンダー・ギャップ指数121位の現状を変えるには、社会保険制度や雇用の仕組みから変えるべきだと説きます。では企業には今、どんな改革が求められているのでしょうか。日経xwoman総編集長の羽生祥子が聞きました。4本シリーズの最終回です。
「転勤可能な総合職が最上位」という概念を変えるべき
日経xwoman総編集長 羽生祥子(以下、――) 出口さんは、女性の登用が進まない理由として、社会構造におけるさまざまな問題を指摘されています。クオータ制のほかには、企業が変えていくべき制度はありますか?
出口治明(以下、出口) 男女差別と並ぶ日本企業のもう一つの病巣は、「転勤可能な総合職が一番上だ」という偏見です。こんな人間性を無視した発想は世界中どこにもありません。総合職かどうかに関係なく、転勤するのは希望者だけだというのがグローバルスタンダードです。

出口 転勤を命じられた社員は、もしかしたら地域のサッカーチームで子どもたちに信頼されている名コーチかもしれない。しかし日本の管理者層は社員と地域の結びつきを無視しています。「家は寝るだけの場所」だと思っているのではないでしょうか。
パートナーのことも無視しています。どうせ専業主婦(夫)だから黙ってついてくるだろう、パートナーが仕事をしているなら単身赴任させればいい、と。
―― 専業主婦(夫)家庭を前提にした転勤制度を受け入れることが昇進の条件になっているようでは、女性はいつまでたってもトップに行けません。
出口 こんなゆがんだ発想が生まれてくる背景には、終身雇用という仕組みが関係しています。「従業員を一生面倒を見るからには、企業のいろいろな場所を見せたほうがいい」という考え方です。まずは雇用制度から変えなくてはいけません。新卒一括採用、終身雇用、年功序列、定年というワンセットの労働慣行は、人口の増加と高度成長という2つの前提があって初めて成り立つガラパゴス的な慣習なのです。