女性管理職登用のためのパイプライン

羽生 石塚さん、2社の取り組みについていかがでしょうか?

石塚 企業の経営側が持つ「やらなければいけない」という信念が感じられます。コカ・コーラ・ジャパンでは50%、日興アセットマネジメントではグローバルで30%と、女性管理職比率について、高い目標を掲げています。しかし、女性管理職は一朝一夕で誕生させられるわけではなく、ある程度、母数を確保しておかなければ目標は達成できないと思うのですが、そのパイプラインをつくるために実践している工夫があれば教えてください。

パトリック コカ・コーラ米国本社では様々な取り組みを実施して、試行錯誤しながら学習を重ねています。「Fifty50リーダーシップ」は、女性リーダーの後継者を見つけるための重要なプログラムです。

 私たちは過去3年間、リーダーシップに関する調査を行ってきました。単に仕事上の業績ではなく、持っている能力自体を評価しています。管理職に就任する社員を決める際にも注意を払っています。

 最近、ある管理職に就任する社員を決める際、男女1人ずつの候補者が上がったことがありました。男性のほうは必要とされる要件をすべて備えていました。女性のほうも経験値は高かったのですが、男性ほどではありませんでした。この2人を先ほど言った方式で評価した結果、女性のポテンシャルが高いことが分かり、女性のほうを採用しました。こうした調査データがなければ、私たちは男性の候補者を選んでいたと考えられます。この調査は私たちが変化を生むために行っている取り組みの一例です。こうして話すと、きれいにまとまったストーリーに聞こえますが、実際には様々な問題に日々体当たりしながら取り組んでいます。

ステファニー パトリックの発言に全く同感です。さらに踏み込んで言うと、私たちが人を採用するときの条件を疑うことが大事なのです。例えば、ポートフォリオマネジャー(資金運用者)採用の際、連続5年以上の実績が必要だと一般的に考えられていますが、「なぜ連続5年以上の実績が必要なのだろう」というふうに考えてみるのです。「累計7年の経験を持っているが、その間に2年間の産育休を取得しているという場合は、その経験では認められないのだろうか」、と。

 また、人のマインドセットを変えるためには、小さいうちから取り組みを始めなくてはいけません。私は子どもの学校に行って、子どもたちと話すことがあります。そのときに子どもたちが持っている男女のイメージを聞いてみると、「男性は家の外で働き、その仕事はこういったタイプが多い。女性は……」と小さな子どもが既に固定観念を持っていることが分かりました。

パトリック 私自身のバイアスについても話したいと思います。私には女きょうだいも、男きょうだいもいます。父親は男きょうだいには「大学に行きなさい」と言い、女きょうだいには「秘書になりなさい」と言いました。そうした家庭内の教育が人に与える影響も非常に大きいと思います。

ステファニー 私の一番上の娘は東京大学に進学しました。養子の男の子は中米グアテマラの(先住民)マヤ人で、肌の色も濃いです。彼はきょうだいとは別の学校に進学したいと言っています。私は常に「人と違うということが価値だよ」と教えています。日々の対話の中でも「もし私たちの誰かが同性愛者だったらどうかしら」と言うと「人と違っていてかっこいいよね」という返事が返ってきます。こうした対話を家庭で重ねることで、社会に出てからも「多様であることは、よいことだ」というマインドセットで生きていけると思います。

ボトムアップで動き出す必要性

羽生 今日の議論をへて、今、日本の組織の中で働いている女性に向けて一言ずつメッセージをいただきたいと思います。

石塚 もし今、チャンスやポジションに恵まれていない場合、それはその女性の実力がなかったわけではなく、周りの人たちに見る目がなかっただけです。勇気を持って一歩踏み出せば、必ず能力が開花すると思います。

パトリック 昨年、日本政府は「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」という通称「2030(ニイマルサンマル)」を、「2020年代の可能な限り早期までに」と達成するタイミングの目標を延期することに決めました。しかし、私はそんなに長くは待っていられないと感じています。ボトムアップで動き出さなければいけないのです。日本の人々は自ら一番先の人にはなりたがらない傾向があります。横並びでみんなが動き出すことを待っている。「出るくいは打たれる」ということわざもあります。でも、たくさんのくいが出てくるようになれば、それを打つのは大変になるはずです。ですから、何人かの人たちが勇気を持って、この問題についてきちんと声を上げれば、実態は変えていけると思います。そうした動きを私たちも支援していきたいと思います。

ステファニー とにかく皆さん、キャリアアップを目指してください。もし会社でひどい扱いを受けるなら、その会社を辞めて、いい会社を探してください。そして、そうした会社に良い人材を失っていることを認識させるのです。

羽生 力強いメッセージをありがとうございました。

構成/小田舞子(日経xwoman)