リーダー的な女性を育成、男性や地域の有力者とグループを

 女性たちはずっと殺されるリスクと背中合わせで、気力が続く限り、そんな抵抗を続けないと救いはないのでしょうか。やはり、ジェンダーは女性だけの話ではなく、男性、性的マイノリティーの話でもあります。最終的に社会を変えるところにまで踏み込む施策が必要です。例に挙げた女性たちはロールモデルや起爆剤となりますが、「点」です。点だけで変えられる範囲には限界がある。私たちはリーダー的な存在になれる女性を育成しつつ、男性や地域の有力者とグループをつくり、コミュニティ単位で争いを防ぐ仕組みをつくっています。社会を変えるような、波及効果を生む道筋をつくることは必要不可欠です。

 例えば、ケニアでは貧しい女生徒に対し、テロ組織から「お金持ちの男性を斡旋(あっせん)するから学校をやめてテロリストにならないか」という勧誘が頻繁に行われています。私たちが支援した例でも、成績優秀な15歳の女の子が学校をやめようとしていました。テロ組織への加入を防ぎ、なぜ親や学校に相談できなかったのかを掘り下げたところ、父親が女子教育に反対していたことが分かりました。

 でも、ここで頭ごなしに「ジェンダーの意識を変えるべきだ」と言っても、衝突や分断を生むだけです。そこで私たちが育成している現地の女性たちが「自分たちも貧しい家庭で育ったけれども、今は研修を受けてプロとして活動している」「定期的な収入もある」と、丁寧に説明しました。ロールモデルを紹介し、違う道もあるのだと示したのです。結果として、その女の子は奨学金を受け取ることができ、学校に通い続けられました。

 こうしたロールモデルを現地で育てると、それまで「社会を変えるのは不可能だ」と遠巻きに見ていた無関心層や次世代の子どもに対する波及効果が大きい。私たちが育成した人々は現地では「憧れのお兄さん・お姉さん」。道を歩くとワーッと子どもたちが駆け寄ってきます。次世代への波及効果はもちろん、地元の警察や行政ともつながり、自分たちの声が行政や政策に反映される仕組みをつくっています。