男女の噂自体が、男女二元論で考えすぎている
羽生 今朝の「違和刊」には、「若い女性起業家が成功すると、『バックに誰がついている?』と言われる。別にいませんけど……」という声もありました。
辻 私も経験があります。起業する時に、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が出資してサポートする構図は至って普通なこと。ところが起業家が女性となると、なぜか色眼鏡で見られてしまう。そんなケースはまだまだ少なくないように思います。そういう噂が立つこと自体、男女二元論で考えすぎだと思うんです。そもそも恋愛は男女間に限らないし、もし同性に支援されていたら、あらぬ噂も立たないのになあと。
羽生 ほかにも「違和刊」では、「面談で育休を取れますか? と聞いたら、『偉くなりたくないの?』と言われました。いや、普通に仕事もバリバリやりたいんですけど……」という男性からのつぶやきがありました。2022年10月から、男性育休の取得を促進する新制度「産後パパ育休」(出生時育児休業)が施行となりましたが、いまだに「育休を取る男性=キャリアのはしごから一旦降りる」というイメージもあるんだなと感じましたね。

辻 もはや、仕事か家庭かをてんびんにかける時代ではないと思います。もちろん時間は有限なので、リソースの配分は考えなくてはいけませんが、それは人生のフェーズによっても変わってきます。
育児だけじゃなく、例えば親の介護や自身のメンタル不調など、人生には誰でも「100%で働けない瞬間」ってあると思うんです。それぞれ波があって当然なのに、「すべての人が常に120%で仕事をし続けること」が前提の社会になりすぎているのではと感じます。それで本当に生産性が上がっていくのかと。生理や低気圧による体調不良など、人によって起こる日常の不調への配慮をはじめ、人間としての生き方を大事にできない会社は、選ばれない時代になってくるんじゃないかなと思います。
羽生 特に20~30代だと、そのような意識や価値観が強いかもしれません。辻さんから見て、世代間のギャップで、乗り越えたいテーマはありますか?
辻 私自身の話になりますが、パートナーとは同世代で、仕事の悩みやこの先のキャリアについて話すこともあります。普段から「バイアスがかかっているな」と感じたら、その都度対話をして、もやもやを解消するようにしています。そんな私でも、結婚を考えた時に、「私がバリバリ仕事をしているのって、相手のご両親からすれば、ちょっと不安に思うかな」とか、勝手に自分に呪いをかけてしまうこともあります。
羽生 辻さんでもそういう感覚がありますか?
辻 パートナー同士では価値観を共有できていても、ひとたび職場や外の環境に出れば、世代によってきっと感覚や文化が違うので、理解されにくい部分はまだまだあるなと感じます。とはいえ、世代に限らず人それぞれ価値観も違いますから、年齢も性別も関係なく、目の前にいる一人の人として向き合い対話を重ねるのみだと思っています。
違和感を覚えたらその都度対話する
羽生 こうしたギャップを埋めていくには、どういうアクションをしていけばいいと思いますか?
辻 2つあると思っています。1つは、今日繰り返しお話ししたように、違和感を覚えたらその都度、対話をし続けること。これはパートナー同士でもそうですし、仕事においても同じです。例えば、カップルのどちらかが転勤する場合、残る側に負担がかかったり、場合によっては一緒に転勤したりする選択肢もあるので、実は会社同士の問題でもあります。ですから、企業の人事担当者も、男性だから女性だからではなく、その人の家庭環境やパートナーシップにおいて、一方だけが仕方なく負担を強いられていないか、その環境を本人が望んでいるのかを都度対話しサポートすることが大事ではないでしょうか。
2つ目は、男女の二元論的な考え方をやめることです。セクシュアリティーもジェンダーも流動的でグラデーションがあります。男女二元論的な考え方ではなく、目の前の人がどう考えているのか、この人は何が得意なのか、人生で今、何を考え、何に悩んでいるのかという個別の目線を大事にすることなのかなと思います。
構成/西尾英子