男性の脳と女性の脳には構造的な違いがあり、考え方や得意なことも異なる――。こうした「男性脳」「女性脳」に基づく主張に対して、「科学的根拠に乏しく、性別役割分担を助長する恐れがある」と警鐘を鳴らすのが、東京大学大学院准教授の四本裕子さんだ。四本さんは脳の構造や機能を測定する機械であるMRIを用いてミリ単位で脳をスキャンし、知覚や時間感覚にまつわる脳の働きを研究している。男女の脳についての見解を聞いた。
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東京大学大学院総合文化研究科 准教授
東京大学卒業後、米国ブランダイス大学大学院でPh.D.を取得。ボストン大学およびハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶応大学特任准教授を経て、2012年より現職。専門は認知神経科学、知覚心理学。
40年前の、わずか14人のデータに基づいた説
―― 日経xwoman編集部(以下、略) 世の中では「男性脳」「女性脳」という言葉が人気です。「男性は脳が~~だから○○が得意」「女性は脳が~~だから△△を好む」といった説は、企業研修などにも応用され、「性別による脳の違いを理解してコミュニケーションを取ることが重要」などのアドバイスがされるケースもあります。
東京大学大学院総合文化研究科 准教授 四本裕子さん(以下、四本) こうした「男性脳」「女性脳」という考え方を紹介している本の中には、最新の研究成果を反映していない非科学的なものが少なくありません。
男女の脳の違いを示す根拠として「左右の脳をつなぐ脳梁(のうりょう)の太さに差があり、女性のほうが太い」という研究結果がしばしば引用されますが、これは今から約40年も前の1982年に、男性9人、女性5人という限られた数の解剖データを元に書かれたものです(*1)。この見解を否定する研究結果も複数出ており、今も信じている研究者は少ないと思います。