女性の社会進出が遅れている国は、空間認知能力にも大きな差

四本 例えば、男性のほうが優れているとされる「空間認知能力」。2018年に世界各地の250万人を対象に行われた研究によれば、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数の順位が高いノルウェーやフィンランドでは、男女の空間認知能力に大きな差がなく、女性の社会進出が遅れている国ほど、空間認知能力の男女差が大きい傾向にあることが分かりました。社会構造が、男女の能力差と相関していることを示唆する例です(*)。

 ジェンダーステレオタイプが存在する社会では、人はそのステレオタイプを内面化し、「自分の性別にふさわしくないとされる行動」を選ばなくなります。社会や教育における大きな男女差を、教育界も、企業も一緒になって、少しずつ埋めていかなくてはなりません。

東京大学大学院総合文化研究科 准教授 四本裕子さん

四本 自身の経験から「男女の能力や思考には差がある」と実感している人は多いかもしれません。しかし、その「自分の経験」も、今の社会に形づくられたもの。脳で見つかっている男女差と、社会・教育における男女差とを比べれば、後者のほうが明確です。自分が実生活で感じている「男女の言動の差」は、「脳に由来するのではなく、社会がつくった差ではないか」という視点を持つことが大切だと思います。そうして、社会や教育における男女差を埋めていくことが、幅広い個人差を尊重するインクルーシブな社会につながるのではないでしょうか。

性別ではなく対個人でコミュニケーション

―― 職場で異性の上司・部下や同僚との関係に悩んでいる人にとって、「うまくいかないのは男女の脳が違うせい。だからこんな言葉をかけよう」という主張は、納得感があるのかもしれません。

四本 職場で、「こういうふうに話すとコミュニケーションが円滑に進みます」というアドバイスは、プラクティス(実践)としては有効だと思います。ただそれは、性別ではなく対個人で考えるべきではないでしょうか。「女性だからこういう風に対応すべき」という考え方を、会社の上層部が持ってしまうと、今ある男女差は固定化され、より強化されてしまうでしょう。