女性の育成プログラムには上司も参加
田中 2つ目は「人材パイプラインの強化」。「リーダーの一歩手前の層」にアプローチし、育てることで女性人材の層に厚みと幅を持たせる目的です。こちらでは座学に加えて、課題解決学習型のスキームを取り入れています。例えば具体的なテーマを設定し、参加者は他社を訪問して事例を研究し、最終的にはマネジメント層にプレゼンします。
実はこのプログラム、上司も対象なんです。上司たちは別のプログラムで「どうやって彼女たちをサポートしたらいいか」「将来的に彼女たちをリーダーにするには、どんな支援が必要か」を学びます。2段重ねのプログラムです。現在、ターゲット層の4割が受講し、9割近くが「目からうろこで有意義だった」と発見があったようです。

羽生 「女性だけを集めて、女性だけが得をするなんて、ちょっと時代遅れなんじゃないの」という声はありませんか。
田中 女性ならではの悩みや課題を共有する場に男性がいると、言いづらいかもしれません。一方で男性のサポートを得ないと解決できない課題もあります。例えば、今お話ししたような上司を巻き込むトレーニングですね。女性だけの場と、男性も巻き込む場の、両方が必要なのではないでしょうか。
上司によってキャリア形成の機会に差があってはならない
羽生 メットライフ生命でも育成プログラムに力を入れているそうですね。
メットライフ生命保険 執行役 チーフヒューマンリソーシズオフィサー 向井麗子さん(以下、向井) 長きにわたり、お客様に寄り添い、安心をお届けするためには、良い人材が不可欠です。良い人材をひき付けるためには、社員が働きやすい環境、キャリアアップできる環境を整備する必要があります。その1つとして、幅広いスキルを学ぶためのさまざまなプログラムを用意しています。全社員参加型、自己啓発型、グローバル展開型、日本独自の研修、部門内で行っている研修など、さまざまなスタイルがあります。
DEI(多様性、公平性、包摂性)を深く学びたいという社員には、社内外から講師を招き開催している「DEI WAVE」という任意参加のプログラムがあります。今年は、LGBTQ+をテーマに社外から講師を招き、社員の気づきや知識を深めてもらおうとしています。

向井 グローバル企業の大きなメリットは「世界各国のベストプラクティスを共用し、生かすプログラムが提供できる」こと。例えば、部下を持つリーダーが参加する「Leading the Future」プログラムがあります。これは、社員意識調査で「マネージャーによって言うことが違う」「マネージャーによって、部下のキャリアに与える機会に差がある」という声が上がったことが、きっかけでした。
羽生 リアルですね。上司によって機会が多く与えられる人もいれば、そうでない人もいたと。
向井 その声に対応するため、このプログラムを全世界で提供しています。それからもう1つ、女性リーダー育成のための「EXCELERATE」プログラムがあります。これはExclusive(選抜型)とAccelerate(加速させる)を組み合わせた造語です。「女性リーダーがキャリアを進める際に直面する課題を解決するためのサポート」に焦点を当て、前身となるグローバルで実施していたプログラムでは、2019年までに全世界で約300人が参加し、約31%の女性が役員に昇進したという実績があります。
女性がCEOやトップマネジメントなどになるためには、どういう知識が必要か。講義あり、グループでの対話あり、外部識者からのアドバイスあり、とぜいたくな内容です。今年はアジアから17人が選出され、日本からは2人が参加しています。
羽生 向井さんも以前、この「EXCELERATE」に参加されたそうですが、いかがでしたか。
向井 世界各国から参加した仲間と問題点を共有し、さまざまな話し合いをしました。その中の1人がプログラムで得た学びから、「自分の仕事の幅を広げよう」と実践しました。その結果が成功し、仲間にも広がり、みんなで喜び合いました。貴重な仲間ができた、素晴らしいプログラムでした。
羽生 国際比較できることも強みですね。向井さん自身も変わりましたか。
向井 法務部、投資部門、財務部門……と、さまざまなバックグラウンドの人が参加していて、今まで自分が仕事で経験したことのない分野の人と話す機会がありました。思ってもいないような考え方やアイデアに触れ、幅が広がったと感じています。