「あなた方の娘さんたちが、将来困らないように」

―― 目標や理念は美しいですが、現実の企業トップを動かすのはさぞ難しいでしょうね。何か決めゼリフというか、説得の秘訣があれば教えてください。

只松 イギリスで30%クラブが創立されたのは2010年。当初のエピソードはとても面白いと思いました。創立者のヘレナ・モリッセイ氏という女性が最初、5人のボード議長を集めたのです(そのうちの一人が先述したデイヴィッド氏)。金融機関などそうそうたる企業のトップである5人の社長に向かって彼女はこう言ったといいます。「あなた方はなぜここに集められたか分かりますか? あなた方はとても大きな影響力を持っているということに加え、お嬢さんがいますね。あなた方の娘さんたちが、将来困らないように、ぜひ、力を貸してほしい」

―― いい戦略ですね。「あなたの娘」を切り札にするとよいという知恵は、東京大学・名誉教授の上野千鶴子さんにも聞いたことがあります。結局、子どもなんですね、自分事にするには。

只松 そのあとの5人の行動力はすごかったといいます。その影響力のある男性たち5人が膝を突き合わせて、FTSE350社(英国の主要企業)の企業リストを見ながら「彼は知り合いだから電話を掛けてみるよ」というふうに、30%クラブの活動に参加してくれるよう、じかに勧誘していったそうです。

 コンサルタントがどんなによくできた資料を持ってプレゼンに行くよりも、自分たちと同じレベルの人たち(企業トップ)からの働きかけは、心に響くのです。相互監視で生じる同調圧力(あるいは、仲間意識)のことをピアプレッシャーといいますが、トップへのよい意味でのピアプレッシャーはとても効果的です。

―― 「あの会社がやってるなら、ウチもやらねば」ということですね。日本でも同じく効果ありですか?

只松 はい、例えば、サブグループの1つ「TOPIX社長会」では、メンバーの経営者が 日本企業でダイバーシティが進まない本質的な問題やそれに対する解決方法を本気で議論しています。参加メンバーの企業によっては、取り組みの進み度合いが若干異なりますが、本気の議論を目の当たりにして、危機感に火が付いたことと思います。

 私も参加させていただきましたが、本当に熱い議論が繰り広げられ、涙が出るほど感動しました。30%クラブ・ジャパンのメンバーである日本企業のトップは本気で、日本企業、そして日本社会を変えようとしています。今後の取り組みにぜひご期待いただきたいです。

文/阿部祐子 写真/小野さやか

只松美智子(ただまつ・みちこ)
只松美智子(ただまつ・みちこ) デロイトトーマツコンサルティング ジェンダー・ストラテジー・リーダー。外資系コンサルティングファームを経て2010年入社、ソーシャルインパクトユニット所属。社会課題、特にジェンダーに関わるさまざまな課題解決に向けたコンサルティングサービスを提供している。企業の役員に占める女性比率を3割に引き上げることを目標としたイギリス発のグローバルキャンペーン「30%クラブ・ジャパン」創設者。