デジタルスキルに特化した“ハローワーク”事業と「プチ起業のはじめ方」

 ユヌス氏は「ポストコロナ時代の経済再構築」を提唱しています。今後経済が回復していく中でソーシャルビジネスを中核に据え、世界経済を包括的に再構築するというものです。ソーシャルセクターや自治体の枠を越え、企業と連携しながら、こうした考え方を強く推進していこうとしています。

 グラミン日本では2つの取り組みを進めています。ひとつは、デジタルスキルに特化した“ハローワーク”事業です。日本は生産性が低くIT人材も不足しているため、一人親にとって子育てや介護をしながらリモートで働けるのは大きなオプションとなります。

 コロナ禍で就労機会を失ったシングルマザーを対象に、金融リテラシーとITリテラシーに特化して仲間と一緒にトレーニングを進め、きちっと企業に受け入れてもらえるまでワンストップのサービスを行います。雇用が非常に重要な問題になりますので、企業とシングルマザーたちのマッチングを行い、女性の経済的自立の支援を進めています。

 受け入れ先である企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I、多様性と包摂)促進に向けてのアドボカシー(働きかけ)ということで、特に地方で眠っているポテンシャルのある人たちに対して、全国でマッチングしていくためのプラットフォームを開発し、スタートさせました。プラットフォームはSAPジャパンが提供し、MAIAと連携しながら、就労支援とデジタル人材育成のためのプログラム「でじたる女子。」を2021年8月に始めました。

 もう一つは、スモールビジネスを立ち上げたいと持っている全国の女性を対象に行っている「プチ起業のはじめ方」という無料のワークショップです。地方自治体、ソーシャルセクターとタッグを組みながらシングルマザーを支援しています。

 現在、様々な企業と共創を進めていますが、企業のニーズとしては大きく分けて四つあります。一つ目は社会課題解決への取り組みを新規事業の活動領域としてやっていきたいと考える企業が増えていること。そんな企業とのタイアップをグラミン日本は進めています。二つ目は一人親の方々を即戦力として確保し、多様性のある人材により企業としての力を付けていきたいということ。三つ目はグラミンと共創を通じて社会課題を解決する人材を育てていきたいと考える企業が増えていること。そして四つ目が、SDGsへの取り組みをきっかけとして経営理念そのものをきちっと再定義し求心力を高めたいということです。

 海外のグラミンがやっているようにグラミン日本もマイクロファイナンスを皮切りにして、ほかのサービスを展開していきたいと考えています。

 仕事で培ったスキルを無償で提供することを「プロボノ」と言いますが、グラミン日本はいろんな企業からプロボノでもサポートしてもらっています。グラミン日本に専業で働いているのは私一人だけで、あとは200人ほどのプロボノで成り立っている組織です。企業にとっては、困窮する人たちをサポートするのは社会貢献の価値が高まることになります。また、他企業のほかに自治体やソーシャルセクターとのネットワークを構築でき、それがアセット(財産)になって本業に生かすこともできます。

 グラミン日本は「Fast alone, Far together」というスローガンを掲げています。この言葉はアフリカのことわざで、「速く行きたいのなら一人で行け。遠くに向かって行くのならみんなで一緒に行け」というものです。

 グラミン日本ができることは限られています。コロナ禍で経済格差が広がってしまった今、SDGsの目標1「貧困をなくそう」を達成するため、企業や団体の皆様との共創によって前へ進め、困窮する方々のカルチャーに溶け込み、その人たちが一歩踏み出すことができるように支援していきたいと考えています。