第2部 女性活躍社会に向け、名古屋から東京、そして地方へ
第2部では、「女性活躍社会に向けた地方の可能性」というテーマでパネルディスカッションが行われた。コロナ禍で困窮するシングルマザーは少なくない。どうすれば貧困の負の連鎖から抜け出せるか。ひとつの解答はデジタルスキルを身につけ、自信を取り戻すこと。そうしたシングルマザーの就労を支援する試みや、採用する側の企業の社会的役割などについて、4人のパネラーから日経xwoman編集員・羽生祥子が話を聞いた。
江成 道子 氏 日本シングルマザー支援協会 代表理事
太田 智 氏 SAPジャパン ISM事業本部 VA ディレクター、グラミン日本顧問
児玉 都 氏 デロイトトーマツコンサルティング ジェンダーストラテジーリーダー、グラミン日本顧問
コーディネーター:羽生 祥子 日経xwoman 編集委員
女性たちの自立支援のためのリカレント教育
日経xwoman編集委員 羽生祥子(以下、羽生) 今コロナ禍で地方の女性をエンパワーメントする動きが高まっています。第2部では、名古屋で生まれている好事例について、お話を伺えればと思っています。最初に皆様の会社紹介、自己紹介をお願いします。

MAIAの月田有香さん(以下、月田) MAIAはこの11月に5期目になったばかりのベンチャーです。女性たちの自立支援のためのリカレント教育を行っており、そこで学んだ女性たちが企業や地方自治体で働ける仕組みを作っています。働きたい女性にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、CAD(コンピューターによる設計)、AI(人工知能)といった最新のテクノロジーを学んでもらい、完全テレワークで仕事をしてもらっています。
日本シングルマザー支援協会の江成道子さん(以下、江成) 日本シグルマザー支援協会は設立して9期目の社団法人です。私自身、5人の子どもを育ててきたシングルマザーで、スタッフも全員シングルマザーです。設立当初から一貫してシングルマザーの自立支援に特化した活動をしてきました。現在、政令指定都市をはじめ8市と連携し、多くの企業に応援してもらいながら就職支援のほかに移住、住宅、養育費保証などの支援を含めて取り組んでいます。

SAPジャパンの太田智さん(以下、太田) SAPは1972年にドイツで創業したソフトウエアの会社です。グローバルビジョンとして「世界をより良くし人々の生活を向上させる」を掲げており、SAPジャパンも「日本の社会課題解決をデジタルやイノベーションを活用して支援する」という目標を掲げています。SAPは、グローバルな社内起業プログラム「One Billion Lives」で毎年、新規事業を募集しています。2020年に、このプログラムでグラミン日本との提携事業が選ばれ、今事業化に向けて進んでいます。それが、働きたい人と企業をつなぐ「Social Recruiting Platform」です。
デロイトトーマツコンサルティングの児玉都さん(以下、児玉) 私は、組織人事の領域、特に日本社会のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進するためのサービスを提供しています。デロイト トーマツが近年、特に力を入れているのはソーシャルインパクトという活動です。イノベーションによってより採算がとれるビジネスモデルへ変えていくなど、抜本的なアプローチを用いて社会課題を解決していこうというのが、我々の活動のコンセプトになっています。
デジタルを活用して仕組み化していけば社会を変えていける
羽生 グラミン日本との取り組みについて、ご紹介いただけますか。
月田 シングルマザーを対象に、「でじたる女子。」という人材育成から就労までを支援するプログラムを2021年8月に始めました。女性が自立するために必要なものは何かを考えると、ひとつはマインドです。自分に自信を持ってもらう。もうひとつはスキルを身につけることです。MAIAでスキルを身につけた女性たちを、グラミン日本の「Social Recruiting Platform」を活用して、企業につなごうとしています。女性の自立に大切なこととは、働き口を見つけてしっかりと働くことです。グラミン日本と協力して女性たちが働きやすく活躍できるような仕組みを今作っています。
羽生 デジタル人材の育成では、どんな教育を行うのですか。
月田 ITの基本となるパソコンのスキルやOffice系のスキルに始まり、RPA、デジタルマーケティングなども学んでいただきます。「中間就労」と呼んでいますが、会社に入る前にOJT(職場内訓練)のような形で、少しずつスキルアップして自信を持ってもらう期間も作るつもりです。
羽生 月田さんのお話の中でキーワードとして出てきたマインド、精神的な支えは重要になってきますね。そういった面で、江成さんはどんな取り組みをされていますか。

江成 女性は社会から離れている期間が1年あれば十分に自信を失う、と言われています。やはりマインドは大切です。あれもできない、これもできない、と「できない」がどんどん増えてしまい、収入も減っていく傾向にあります。そうではなく、「できる」を増やしていくために寄り添い型の支援をしています。そのために、日本シングルマザー支援協会内に5人一組の「プレグラミングループ」を作って、毎月、個別相談や小さな体験などを積み重ねることで「プチ起業」をサポートしています。プレグラミングループはこれから3組目がスタートします。
羽生 SAPの太田さんはいかがですか。
太田 MAIAでスキルを身につけた女性たちを、企業とマッチングする「Social Recruiting Platform」を提供しています。一人をマッチングするのならシステムは必要ありません。ところが、どんどん増えマッチングの数が多くなっていくと人海戦術では限界があります。「デジタルを活用して仕組み化していけば社会を変えていける」と考えて、一緒にやっていくことになりました。