採用時にポテンシャルやパフォーマンスを除外する人事担当者
羽生 受け入れ先の企業との取り組みについて、児玉さんからお話いただけますか。
児玉 2020年5月から、シングルマザー向けの就労支援を手伝っています。今年に入ってからプロジェクト全体のエコシステム作り、受け入れ企業のネットワーク拡大を進めているほか、企業に対してシングルマザーの方々や就労困難になっている方々を雇用するよう働きかけを行っています。
羽生 シングルマザーの雇用は大企業ではなかなかった第一歩だと思うんですが、取り組みで意外に思われたことはありますか。

児玉 「経験がないとだめ」「ブランクがあってはだめ」と考える人事担当者は多いですね。その女性のポテンシャルやパフォーマンスを考えずに、すぐに候補から外してしまう習慣があると思います。逆に、将来的な企業価値向上に資するのであればSDGsの取り組みとして積極的に雇用し、育成して定着するまで丁寧にフォローしたいという企業もあります。
羽生 江成さん、東京のど真ん中にある大企業だと、応募する方も萎縮しちゃうこともあるんでしょうか。
江成 やはり「私なんかでいいんですか」と、面接の時に不安な気持ちを伝えてしまうことがあります。「面接はあなたの不安を払拭する場所ではないですよ」「どんな場所で働いてもらうか企業が見る場だから、どんな貢献ができるのかお伝えしましょう」と説明しておけば、ちゃんとできるようになります。
羽生 デジタルを活用して、弱みを強みに変えられるようなこと、何か支えてあげられるようなことはあるんでしょうか。
太田 資格取得情報だけではなく、その人を表現できるものは何か、日本シングルマザー支援協会などと協業しながら今考えているところです。Social Recruiting Platformというハコの中に、どういうコンテンツを入れていくか。そこが重要になると思います。
羽生 児玉さん、デロイト トーマツでこういうスキルがあれば採用するという事例があれば教えてください。
児玉 いくつかあります。2021年6月に福岡にデジタル人材育成のためのソフトウェア開発地域拠点(ローカルデリバリーセンター)を設立しました。そこでエンジニアをサポートするテクニカルなお客様窓口などをやってくださるポジションがひとつ。その他各オフィスでのコンサルタントを支えるアドミニストレーション業務をチームでやっていただくことも考えています。
しっかり働き続けることが何よりも重要
羽生 いろいろな取り組みにチャレンジされていますが、その中で気づいたこと、今後の展開についてお話を伺いたいと思います。
月田 私がMAIAの活動を通して気づいたことは、男性も女性も何歳からでも学べますし、スキルアップできるということです。専業主婦で外へ出たことがなくて不安だという方も、学んで協力し合いながらいけば必ず外に出られる。それが私の中で一番の気づきですね。
20年5月に沖縄に支社を作りました。沖縄には女性の課題がたくさんあります。シングルマザーの割合が日本で一番多いし、離婚率も高い。時給単価も低い。こうした地方の課題は、ほかの自治体でも抱えています。「でじたる女子。」の取り組みを、これから地方の自治体や団体、地域の皆さんと一緒に、進めていきたいと思っています。
江成 新卒で入った会社で働き続けてきた50代のシングルマザーで貧困の人って見たことがありません。しっかり働き続けることが何よりも重要ということです。働く環境、責任のある仕事にどれだけ戻れるかががカギになりますので、当たり前に社会復帰できる仕組みを作っていこうと思います。
太田 企業の可能性は非常に大きいと感じています。特に若い人たちの間には社会課題の解決に関心を持っている人が多くいます。今後は、地方での女性活躍を支援したいですし、SAPの中で日本発の取り組みをグローバルに発信し、日本のプレゼンスを高めていきたいと考えています。
羽生 児玉さん、企業側の今後の展開についていかがお考えですか。
児玉 今お話している大企業の方ですとか、CSR(社会的責任)、SDGsに関わっている方々と連携しながら「コレクティブインパクト」(異分野の組織が集まって社会課題の解決に取り組むこと)を出していく。それぞれの企業が単独でやるのではなく、業界全体で考えていく。そういう連携をどんどん作っていきたいと思います。地方の企業も巻き込んでいきたいですね。各地域にはそれぞれの課題があって、シングルマザーの方々の力を借りたいというニーズがあることにも気がつきました。地域課題の解決と就労をセットで皆さんと一緒に考えていく場を作っていきたいと思っています。
