「加齢=ネガティブなもの」という考え方はひと昔前のこと。「人生100年時代」と言われる昨今では、誰もが前向きに歳を重ね、自分らしい人生を全うする 「プロダクティブ・エイジング(PA)」という概念が注目されている。PAの実現を目指す「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム(PAC)」が昨年11月にオンライン開催した「第2回PAC国際シンポジウム」では、プロマラソンランナーの大迫傑さんほか、各分野のプロフェッショナルがPA実現のための最先端の知見を紹介。さらに最先端の老化制御研究や技術も発表されるなど、コロナ禍以降のニューノーマルの世界で、豊かに年を重ねるためのヒントが目白押し。白熱のシンポジウムの様子をレポートする。

自分らしく前向きに年を重ねる“プロダクティブ・エイジング”
「アンチエイジング(抗加齢)」という言葉が浸透するなかで、加齢に対してネガティブなイメージを抱く人も多いのではないだろうか? しかし、超高齢社会が急速に進むなかで、その捉え方は大きく変化している。年齢にあらがって、見た目の若返りを目指すのではなく、生き生きと豊かに年を重ねて健康長寿を目指す――そんな新しい考え方が注目されているのだ。
その代表的なものが、老年学の父と言われるロバート・バトラー博士が1975年に提唱した「プロダクティブ・エイジング(PA)」という考え方。全ての人が、年を重ねることを前向きに捉え、自分を取り巻く社会や人につながることで、最期まで自分らしい人生を全うしていくこと。同時に、豊富な知識や経験を活かしてプロダクティブ(創造的)な活動を行い、社会貢献する生き方を目指すという概念だ。こうしたPAの考え方は、少子高齢社会の対応策としても期待されており、コロナ禍の世界でさらに大きな関心を集めている。
シンポジウムの冒頭挨拶で登壇したPAC理事で明治ホールディングス執行役員の谷口茂さんは、「コロナ禍で人との関わりが制限され、高齢者の体力や認知機能の低下、孤立などの社会課題が改めて浮き彫りになった。こうした状況下で、いかに元気に前向きに年を重ねて生きていくかが課題。PACでは、その解決のための情報を積極的に発信していきたい」と強調した。

【参画企業】オリエンタル酵母工業/島津製作所/帝人/東京海上日動火災保険/ポラリス/ミルテル/明治ホールディングス 【世話人】NOMON
「老化が気になる」人は7割以上。その一方で老化に関する情報が足りていない現状が浮き彫りに
実際に、日本人は「老い」に対してどのような価値観を抱いているのだろうか? 企画講演では、オムニコム・ヘルス・グループ・アジアパシフィックの小林伸行さんが、老化に関する実態やニーズに関する調査結果について報告。「幅広い世代において7割以上の人が『老化が気になっている』と答え、さらに7割近くの人が『日常生活に老化の影響が出ている』と回答した」という。
老化に対する考え方に関する調査では、「いくつになってもワクワクしていたい」「若いねと言われることは嬉しい」「自然に年を重ねることは素敵なことだ」など、老化をポジティブに捉える回答も幅広い世代共通から聞かれた。逆に「老化は仕方ない」「老化対策はまだ自分には関係ない」といった、消極的な意見はスコアが低い結果となった。
さらに老化に対する考え方とどのように生きたいかという価値観を散布図で分析した結果、大きく5タイプに分類できたが、その一方で全てのタイプにおいて、老化対策の行動に大差がないという現状も明らかになったという。
総合的に見ると、「幅広い年代の生活者が老化を気にして」おり、その根底に「いくつになってもワクワクしていたい」「自然に健康的に年をとりたい」「老化をあきらめたくない」という共通のニーズを持っている。しかしながら、世代やタイプごとに行動に大差がない理由を推測すると、「健康に対する正しい情報や知識が不足しているために行動につながっていない」という分析ができた。
調査から浮き彫りとなった課題を受けて、PAC事務局 NOMON取締役COOの狩野理延さんは、今後のPACの活動指針となる「プロダクティブ・エイジング宣言2021」を発表。「生活者のインサイトやニーズを実現するためにも、今後も情報配信や新サービスの提供など、業種やジャンルを超えて協力し活動していきたい」と強調した。