IgAは粘膜免疫の土台となりその機能を支える

 病原体の侵入から常に体を守ってくれる粘膜免疫ですが、誰もが同じようにその力を発揮できるわけではありません。粘膜免疫を始め免疫機能には非常に個人差が大きい、ということが近年の研究によってわかってきたそう。「同じ病原体に感染しても、発症し重症化する人と発症せず症状もない人がいます。また、同じワクチンを接種しても、抗体が高く産生される人、あまり産生されない人、さらには、副反応として発熱する人、しない人がいます」(國澤さん)

 では、どのような要因で粘膜免疫の働きは低下してしまうのでしょう。免疫低下の原因となる代表的な病気が、糖尿病です。粘膜免疫を発揮する粘膜表面には病原体を阻むIgAを含む「粘液層」がありますが、「糖尿病患者の腸管の粘液層は減少し、病原菌が容易に侵入しやすい状態になっていることが近年の複数の研究で報告されています」と、消化器を専門とする臨床医で腸内細菌叢の研究を行う内藤さんは指摘します。

 粘膜免疫において主体的な役割を持つのが「IgA」。病原体にくっついて無力化したり、体内から除去する働きを持っていますが、内藤さんはこのIgAの分泌が遺伝的に低い「IgA欠損症」の比率が高くなるほど各国における新型コロナ感染者数が増えている、というデータに着目し、論文を発表しました[1]。「日本ではIgA欠損症の患者数が非常に少ないのです。日本人には何か特有の粘膜免疫の仕組み、あるいはそれに関わる生活、食生活要因が隠されているのかもしれないと考えています」(内藤さん)

 國澤さんは「腸管には体の半分以上の免疫細胞が集まっていて、IgAはそこでたくさん作られます。IgAはその人の免疫状態を反映する指標の一つとなり、同じ人の体内でもその分泌量は変化しています」と言います。

 IgAが低下する要因として気を配りたいのが「ストレス」である、と國澤さん。「ストレスを感じるときや口を開けて眠ってしまったときなどは口がカラカラに渇きますね。こういうときには唾液量が減り、粘液層も薄くなっていると考えられます」。

 内藤さんも、「ストレスで緊張すると私たちは無意識のうちに水を飲みますが、知らず知らずのうちに乾いた口を潤し、粘膜免疫を守っているのかもしれません。粘膜には、それを守る粘液とその中にあって病原体などの異物を外に押し出そうとする線毛、異物を攻撃する抗菌ペプチドという免疫物質も存在し、それらは常に宿主の状況に応じて動的に働き、感染をブロックしています。ストレスは、そういった粘膜組織の動的な因子の活動を一時的に止めてしまうのではないでしょうか。こまめに水分をとることや、マスクで口の中の湿度を高めることを意識したいですね」と話します。