食物繊維、ビタミンB1――不足すると粘膜免疫の防御力が低下する食品成分も

 粘膜免疫の司令塔ともいえる「パイエル板」がある小腸は、食事でとった食品成分を体内に吸収する場所でもあります。実際に粘膜免疫は、食べたものの影響を大きく受けることがわかってきました。

 「ダイエットなどエネルギー摂取量自体が少ない状態は免疫細胞の働きを低下させます」と國澤さんも内藤さんも口を揃えます。

 忙しい日々の中、食事内容が偏りがちな人は、食物繊維不足にも注意が必要。腸内細菌のエサとなる食物繊維を欠乏させた状態で飼育したマウスでは、腸管の粘膜を守る粘液層が薄くなり、病原体の侵入を容易にしてしまう、という報告があります[2]。内藤さんは、腸を守るように働く効用菌が好んで食べる水溶性食物繊維をマウスに与えることによって、食物繊維欠乏食によって薄くなった粘液層が復活することを確認[3]。内藤さんによると、「高脂肪食や抗生物質、ある種の薬剤が粘膜層を薄くする要因となることがあります」とのこと。

 一方、國澤さんは腸内細菌や免疫に影響を与える食事の因子を調べる中で、ビタミンB1の働きを見いだしました。「ビタミンB1が欠乏したエサで飼育したマウスは、腸管のパイエル板、脾臓、リンパ組織などの免疫機能を担う重要な組織が大幅に縮小し、ワクチンを打っても抗体がほとんど産生されませんでした(グラフ)。また、免疫細胞であるT細胞を作る胸腺も萎縮してしまいました」

 ビタミンB1は、豚肉、酵母や小麦胚芽、大豆などに多く含まれます。なお、とり方には大切なポイントが。「ビタミンB1はアリシンという成分と合わさると腸管での吸収が促され、血中にも長くとどまります」(國澤さん)。アリシンは、ニンニク、タマネギ、ニラなどに豊富なので、組み合わせて食べるよう意識するのが賢い方法だと付け加えました。

ビタミンB1欠乏状態のエサで飼育したマウスはパイエル板が大幅に縮小し、B細胞やT細胞といった免疫細胞も減少していた。また、通常のエサで飼育したマウスと比較し、コレラ毒素ワクチン投与後の糞便中のIgA抗体量も大幅に減少した。<br>(データ:Cell Rep. 2015 Oct 6;13(1):122-131.をもとに改変)
ビタミンB1欠乏状態のエサで飼育したマウスはパイエル板が大幅に縮小し、B細胞やT細胞といった免疫細胞も減少していた。また、通常のエサで飼育したマウスと比較し、コレラ毒素ワクチン投与後の糞便中のIgA抗体量も大幅に減少した。
(データ:Cell Rep. 2015 Oct 6;13(1):122-131.をもとに改変)

 では、粘膜免疫を維持するために私たちが意識したい食生活とはどんなものでしょう。

 内藤さんは100歳以上の百寿者が全国平均の約2.7倍と多い京都府北部の京丹後地域で腸内細菌叢の解析調査を行う中で、「高齢者の腸内細菌を調べたところ、都市部と比べて、全身の健康に有用な短鎖脂肪酸の一つ、酪酸を作る酪酸産生菌が特異的に多いことがわかりました」と言います。これらの高齢者ではインフルエンザ罹患者も肺炎で入院した人も少なく、体内で免疫機能が良好に働いていることが推測されたそう。

 「百寿者の食生活を調べると、魚をよく食べ、動物性脂肪の摂取比率が少なく、野菜や海藻、精製されていない全粒穀物などから食物繊維を多く摂取しています。日常生活での活動量が多く、早寝早起きで、概日リズムに合った生活をされている。ありきたりではありますが、健康的な暮らしというものが免疫維持の基本となる、ということです」(内藤さん)。

 伝統的食生活の中で特徴的な漬物などの発酵食にも腸に有用な菌が含まれ、プロバイオティクスといわれて注目されています。「中には、粘膜免疫の立役者であるIgAの産生を促進し、風邪の発生率を抑制することが確認された乳酸菌もあります。そのような乳酸菌が持っている特定の物質を腸管の免疫細胞が認識することでIgAの分泌が促進される、と考えています。不思議なことに、IgAは口腔内や消化管の粘膜表面という戦いの現場に出るときに病原体をつかまえる手が増えて、捕獲力を増すこともわかっています。発酵食に含まれる乳酸菌などにより多様な腸内細菌叢が形成されることによって、トータルで免疫を維持していくことができます」(内藤さん)

 「よく、免疫力を高めよう、という言葉が使われますが、この言い方は必ずしも正しくありません」と國澤さん。私たちは、常に変化する環境に応じて免疫力が適切に働くことを目指すべきだと強調します。

 例えば、病原体の排除に対しては免疫がしっかりと働くことが必要ですが、病原体に対する免疫が強まりすぎて暴走する「サイトカインストーム」が起こると、感染症が重篤化することも。花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー症状も、異物に対する過剰な免疫反応が原因です。

 「免疫は、何に対しても高めればよいというものではなく、免疫のバランスが整った状態を作る、というものを目指したいですね。IgAは唾液や粘液中に出ることで病原体やアレルゲンにくっつき、体内への侵入を阻止しているという点に着目しています。これらが侵入して免疫が動き出す前に抑える機能を持っているのです」(國澤さん)

 絶えず私たちの体への異物の侵入を防御している“体内のマスク”ともいえそうな粘膜免疫。その働きは局所から全身へと巡っていることや、粘膜免疫が適切に働くためには、規則的な生活や適度な運動、睡眠、そしてバランスの良い食事から幅広く栄養をとることが重要だということを再認識できたセミナーでした。

[1]J Clin Biochem Nutr. 2020 Sep;67(2):122-125.
[2]Cell Host Microbe. 2015 Oct 14;18(4):478-88.
[3]J Nutr Biochem. 2006 Jun;17(6):402-9.

取材・文/柳本 操 写真/田中勝明 図版作成/RINTO DESIGN 構成/大霜佳一(remix.inc)