世界中で愛される「コカ・コーラ」など各種飲料ブランド。世界200以上の国・地域で500以上のブランドを展開し、全世界の従業員数は70万人以上を数える。多様性に満ちた市場で事業を持続的に継続するために重視しているのがダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考え方だ。日本コカ・コーラは2025年までに女性管理職比率を50%に引き上げる野心的な目標を掲げる。人事本部長のパトリック・ジョーダンさんになぜD&Iに取り組むのか、どんな組織を目指しているのか、またテクニカル部門を担当し、女性シニアリーダーとして活躍する乙黒慧(けい)さんに女性活躍推進の新しい取り組みなどについて語っていただいた。(聞き手は平田昌信・日経xwomanプロデューサー)

日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン ジャパン&コリアオペレーティングユニット 人事本部長(左)と、乙黒 慧技術・イノベーション・サプライチェーン本部 テクニカルオペレーションズ&コマーシャリゼーション部門 シニアディレクター(右)
日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン ジャパン&コリアオペレーティングユニット 人事本部長(左)と、乙黒 慧技術・イノベーション・サプライチェーン本部 テクニカルオペレーションズ&コマーシャリゼーション部門 シニアディレクター(右)

「ジェンダー」「障がい者支援」「LGBTQ」を重視

―― コカ・コーラ社のD&Iについての考え方を改めて教えていただけますか。

パトリック・ジョーダン人事本部長(以下、敬称略) コカ・コーラ社では、「世界中をうるおし、さわやかさを提供すること。前向きな変化をもたらすこと。」を企業としての使命に掲げています。この使命を達成するために世界中の人々のあらゆる多様性を歓迎し尊重することが重要だと考えており、それは、職場環境においても同様です。コカ・コーラ社は、D&Iへの取り組みを経営戦略における優先事項の一つと位置付けており、多様性を受け入れる職場環境はすばらしい創造性と革新性、また地域社会とのつながりを育むベースになっており、まさにD&Iはコカ・コーラ社のDNAとなっています。

 コカ・コーラ社は1934年、世界の主要な企業で初めて女性を取締役に登用したことで知られています。

 私がコカ・コーラ社の一員であることを誇りに思う理由として、マーティン・ルーサー・キング牧師が1964年にノーベル平和賞を受賞した時のエピソードがあります。授賞式から戻ったキング牧師を故郷のアトランタで祝うパーティーが計画されたのですが、彼が黒人だったことからほとんどの人が参加しようとしませんでした。しかし、コカ・コーラ社の最高経営責任者(CEO)が出席を表明し、多くの人に声をかけたところ、アトランタの多くの人たちが参加することを決め、ノーベル平和賞受賞記念パーティーは成功裏に開催することができたのです。

 また、日本で販売しているブランドの75%は日本生まれです。日本の消費者ニーズに基づいてローカルブランドを開発・販売していることは、我々のビジネスにおいてD&Iを語るうえでもとても重要な事実です。

 実は「ジョージア」「い・ろ・は・す」「綾鷹」「アクエリアス」といった日本生まれのブランドは海外でも成功を収めていて、それもやはりD&Iの観点からみた一つの事実と言えると思います。

―― D&Iが重要だと考える理由は何でしょうか。またその取り組みについてお話しください。

パトリック コカ・コーラ社は世界のほとんどすべての国・地域でビジネスを展開しています。それぞれの国で消費者のニーズは違いますし、ジェンダーに対する意識も異なります。だからこそD&Iがとても重要になると考えています。

 ジェンダーの取り組みだけではなく、障がい者への支援も重要視しています。障がい者の活躍推進に取り組む国際イニシアチブ「The Valuable 500」に参画し、障がいのある人々への認識を高め、尊重するようにしています。我々は東京2020オリンピックに加え、パラリンピック競技大会の公式スポンサーでしたし、知的障がい者の健康とスポーツの推進に取り組む世界最大の組織「スペシャルオリンピックス」のスポンサーでもあります。

 もう一つ重要なのはLGBTQ(性的少数者)に対する認知度を高め、理解を深めることです。日本コカ・コーラは婚姻の平等(同性婚の法制化)に賛同する企業を可視化するキャンペーン「Business for Marriage Equality」に賛同し、参画しています。また次世代のLGBTQの若者が安心して集える居場所づくりに取り組む「プライドハウス東京」にも協賛しています。

 日本コカ・コーラの社内でも平等な職場をつくろうとしています。日本コカ・コーラとボトリング会社5社で構成するコカ・コーラシステム全6社で2021年5月、同性パートナーにも対応した福利厚生および就業規則を整備しました。

 私自身もLGBTQの当事者ですが、なぜ日本コカ・コーラで仕事を続けているかというと、日本コカ・コーラの職場で素の自分を表現できるからです。そして、一緒に仕事している仲間がそれを受け入れてくれるからです。私がこうした環境で学んだことは、相手の気持ちを理解できなくてもいい、大切なのはその気持ちを尊重することだということです。

「コカ・コーラ社は、D&Iへの取り組みを経営戦略における優先事項の一つと位置付けており、多様性を受け入れる職場環境はすばらしい創造性と革新性、また地域社会とのつながりを育むベースになっており、まさにD&Iはコカ・コーラ社のDNAとなっています」
「コカ・コーラ社は、D&Iへの取り組みを経営戦略における優先事項の一つと位置付けており、多様性を受け入れる職場環境はすばらしい創造性と革新性、また地域社会とのつながりを育むベースになっており、まさにD&Iはコカ・コーラ社のDNAとなっています」