未来に向けた新しい産業誕生のきっかけとして

大橋 2020年11月に、北海道の寿都町と神恵内村で、高レベル放射性廃棄物の処分場を建設する場所として、適切かどうか判断するための最初の調査である「文献調査」が開始されたと報道で知りましたが、萱野さんはどう受け止めましたか。

萱野 私もある記事で拝見したのですが、寿都町の片岡春雄町長は、町営の風力発電施設をつくられるなど、エネルギー問題に早くから取り組まれている方のようです。高レベル放射性廃棄物の処分についても、日本全体で解決しなければならない課題であり、地域にとっても非常に意義のある取り組みであると感じていたそうです。

大橋 片岡町長は、原子力発電による電気を利用してきた現世代の責任感と共に、地域の未来につながる何かを見通されていたのかもしれませんね。

萱野 地域によっては、過疎化や少子化という問題に直面しているところもあり、いかに産業を興して、地域を活性化していくかという悩みがあると思います。もしかしたら片岡町長は、地層処分事業そのものが新しい循環型社会として未来への投資につながる、ひとつの大きな事業になるのではないかと考えていらっしゃるのかもしれないという印象を受けました。

大橋 すでに高レベル放射性廃棄物の処分場所が決定したスウェーデンのエストハンマル市長も、それが決め手のひとつだとお話しされていたように思います。新しい未来へ向かうための産業を立ち上げる機会という理解を市民と共有することが、合意形成のカギになったそうです。

萱野 新しい産業を立ち上げることで、大きな循環型の仕組みができたり、さまざまな知見が得られたりもします。それをまた将来のエネルギー政策に活かすことができるという点では、地層処分事業は、未来への投資につながる事業とも言えますよね。

高レベル放射性廃棄物の処分を自分ごととして考えていくには

大橋 このことを報道で知った時、多くの人が、「ここで処分場が決定するのかな」という、間違った印象を受けやすかった気がするんです。決定ではなく、あくまで最初の調査を受け入れたという段階であって、まだまだ多くの自治体に文献調査に手を挙げてほしい状況にもかかわらず……。伝え方の難しさを感じましたね。

萱野 そうですね。メディアの反応という点では、2007年に高知県の東洋町が文献調査に手を挙げた時は、感情的な議論が多かった印象です。それに比べると、今回の報道は少し落ち着いている感じがしました。それは、高レベル放射性廃棄物を何とかしなくてはいけないという問題意識が、徐々に広まってきたことが影響しているからでしょう。あとは、それをどこまで他人ごとではなく自分たちの問題として理解してもらえるかが重要なポイントだと思います。社会全体で取り組んで、受け入れ地の多様な可能性を応援しながらさまざまなところで文献調査を行えたらいいですよね。そして、最終的に地層処分を受け入れてくれた地域に対しては、この国の未来にとって重要な役割を担ってくれているという敬意を、私たち全員が持つことが大切だと思います。

大橋 最近はエネルギー問題を含むSDGsが重視され始めました。持続可能な社会の実現にも、高レベル放射性廃棄物の処分を自分ごととして考えていかなければいけない問題ですね。

萱野 今の状態で放っておくのが一番良くないことだという認識が、自分ごととして考えることの出発点だと思います。今ある問題を解決することが、巡り巡って私たちが住む環境全体の向上につながり、自分の体の健康や、快適な暮らしに結びつくわけですから。

大橋 今日、萱野さんのお話を伺って、経済活動の裏側には、生まれてくるものだけでなく、解決しなければならない問題も残っていることを、うちの子どもたちと一緒に話し合いたいと思いました。そして、これからの世代がより良く暮らしていけるように、今の世代でできることはやっていこうと思います。今日は、どうもありがとうございました。

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取材・文/山内章子 写真/小林大介