さまざまな病気の引き金となる肥満。見た目は太っていなくても内臓脂肪が蓄積している隠れ肥満の方も要注意です。肥満対策で今注目を集めているのが、腸でつくられるタンサ(短鎖)脂肪酸の働き。肥満に伴う病気を防ぐ腸活のポイントについて、栄養・食事療法などに力を注ぐ、赤坂ファミリークリニック院長の伊藤明子さんに教えてもらいました。

コロナ禍で腸内環境が乱れ、肥満が増加

 「腸内環境の乱れは便秘や腹痛といったおなかの不調を引き起こすだけでなく、肥満や内臓脂肪、大腸がん、アレルギー、肌荒れ、脳への影響など全身の健康と密接な関係があることが、多くの研究で報告されています。腸は第二の脳といわれるほど体調への影響が大きく、近年では鬱や不眠との関連性も指摘されています」(伊藤さん)

 腸内環境を左右するのは、大腸に生息する約1000種類・100兆個を超える腸内細菌によって形成されている「腸内フローラ(腸内細菌叢)」です。善玉菌、悪玉菌、日和見菌と大きく分類される細菌がそれぞれバランスを取り合うことで腸内環境は良好に保たれ、バランスが崩れることで乱れていきます。

 特にコロナ禍以降、腸内環境が乱れて肥満リスクが高まっている人が増えているといいます。

 「おうち時間の増加やテレワークなどで運動不足に拍車がかかっているのです。ストレスからか、日常的に飲酒する女性も増えている印象ですね。これらはすべて腸内環境を乱す要因。その結果、肥満という形で問題が表出し、世界的に大きな課題となっています」(伊藤さん)

 実は、諸外国に比べてダイエット意識の高い日本人女性はスリムな容姿の人が多く、やせすぎリスクも高い傾向にあるといいます。しかし、見た目にかかわらず内臓に脂肪が蓄積している「隠れ肥満」のケースは少なくないので注意が必要です。

 「無理なダイエットによる栄養不足や、不規則な生活習慣、運動不足やストレスも腸内環境の乱れを招き、肥満リスクを高めてしまいます。夏場にのど越しの良い麺類だけで食事を済ませたり、冷たいものを口にする機会が増えたりするのもよくありませんね」(伊藤さん)

 腸内細菌は、体内にとり入れられた食物を代謝し、さまざまな代謝産物をつくり出します。例えば、有益な代謝産物をつくる腸内細菌が減ってしまうと、食欲や満腹を感じる機能にも影響が出て、食欲のコントロールが難しくなるのです。

 「実際、肥満傾向のある人とそうでない人では、腸内細菌のバランスが大きく異なります。腸内環境の乱れと肥満は相互に強く影響し合っているのです」(伊藤さん)

肥満の問題点は体型以上に病気リスク

 では肥満状態は健康にどのような悪影響をもたらすのでしょうか。

 「日本では、BMI(※)25以上を肥満と定義していますが、これは見た目で分かる体型の肥満を見いだす基準。先ほどもお話しした通り、体型にかかわらず、内臓脂肪の増加といった肥満傾向がある場合も用心が必要です。そして肥満対策は、要するに『病気の予防』として重要なのです。肥満はいうなれば全身の炎症状態。連鎖的に体の各部分に悪影響が広がってしまいます。肥満は高血圧や喫煙などに次いで死亡リスク因子の第5位でもあるのです」(伊藤さん)

※BMIとは、体重kg ÷ (身長m)2で算出する、肥満度を表す体格指数のこと。日本では25以上を肥満と定義している。

 特に女性は、女性ホルモンのバランスが急激に変化する 40代以降に、中性脂肪やコレステロールなど脂質代謝に異常をきたす脂質異常症のリスクが跳ね上がり、肥満傾向に陥りやすいと伊藤さんは言います。悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが増えすぎると動脈硬化を引き起こす要因となり、進行すると心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患につながります。

 「また、内臓脂肪が増えると血液中の糖分も増え、血糖値を一定に保つインスリンの働きも低下します。その結果、血糖値の高い状態が続くことになり、糖尿病や、糖尿病による網膜症、腎症といった合併症のリスクが高まるのです」(伊藤さん)

 さらに、肝臓に中性脂肪が過剰にたまることで発症する「脂肪肝」もコロナ禍以降、増えているそう。BMIが標準値である人でも脂肪肝になっているケースも少なくありません。

 「脂肪肝にはアルコール性と非アルコール性の大きく2種類があり、いずれも増加しているように実感しています。前者は自宅で飲酒する機会が増えたことが要因のひとつと考えられます。後者は食生活の乱れや運動不足、時には過剰な内臓脂肪の影響やストレスなどが要因となると考えられています。先に述べた腸内環境が乱れる要因と重なる部分も多く、肥満と同様にコロナ禍以降の課題のひとつとなっています。脂肪肝は初期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、放置していると肝硬変や肝臓がんに進行する場合もあるので、定期的に健康診断を受けることも大切です」(伊藤さん)