UN Women(国連女性機関)日本事務所 所長 石川雅恵
今年も日経ウーマンエンパワーメント広告賞が開催されることが決定し、エントリー作品の募集が始まっています(募集期間は8月31日まで)。同広告賞は、ジェンダーに基づいたステレオタイプを打破し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに貢献する広告を制作した企業を表彰することを目的としており、UNSTEREOTYPE(アンステレオタイプ)広告賞と日経特別賞の2つの賞で構成されます。
昨年に続き、私もUNSTEREOTYPE広告賞の審査員を務めます。各社独自の視点でアンステレオタイプに取り組む広告には、ジェンダー平等な社会に私たちが少しずつ近づいているという希望を感じることができました。今年もどんな「攻める」広告に出会えるか、楽しみにしています。

2020年に開催された第1回目のUNSTEREOTYPE広告賞に選ばれたのは、ユニ・チャームの「#NoBagForMe」プロジェクトでした。この広告キャンペーンは、「生理は隠さなければいけない」というステレオタイプを変えようという呼びかけの素晴らしさに加え、生理用品の購入時に「過剰な包装はいりません」と店員に伝える、という誰もができるアクションを促したことが、審査員からの高い評価につながりました。
世の中の「当たり前」や「普通」とは違うメッセージや価値観を発信していくには、時に勇気が必要です。SNS(交流サイト)の普及により、瞬く間に「炎上」する可能性も考慮しなければいけません。しかし、当たり障りのない広告は人々の印象に残りません。広告とは人々の印象に残すために世に出すものではないでしょうか。
ユニ・チャームの「#NoBagForMe」プロジェクトは、生理用品を使うことで生理の存在を忘れさせることをうたう、多くの生理用品の広告とは一線を画すものでした。生理がある人々の悩みを可視化し共有すること、そして、生理は隠すべきだという考えを助長する過剰な包装を拒否してもよいという選択肢を提示すること。その点で「#NoBagForMe」プロジェクトは、「攻め」の広告でした。
広告を出している企業のジェンダー平等と女性のエンパワーメントに対する姿勢が攻めなのか、守りなのかは、見ている人に瞬時に伝わります。あなたの働く企業は今、「攻め」と「守り」のどちらの姿勢をとっているでしょうか。恐れずに攻めることで、ブランドや商品、企業の姿勢を示した印象に残る広告がビジネスの成功にもつながっている事例が世界的にも増えています。
ジェンダーに基づいたステレオタイプを打破し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに貢献する広告を募集しています。応募できるのは、2020年9月1日から2021年8月31日までに放送、掲載されたテレビ広告、ラジオ広告、デジタル広告、新聞/雑誌広告。広告を出稿した企業のほか、広告代理店、広告制作会社、出版社などのメディア企業がご応募できます。ふるってご応募ください!
男性登場人物の出演時間と話す時間は、女性登場人物の約2倍
広告は私たちが憧れる暮らし方や、生活がより便利に、より楽しくなる商品を見せてくれるものです。ほぼ毎日何らかの形で目にする広告は、私たちの購買意欲だけでなく、ものの見方や考え方に大きな影響をもたらしています。
しかし、ある調査によれば、そんな広告に対して女性の76%、男性の71%が、「広告における自分たちの描写方法に全く共感できない」と考えています(※1)。
広告の現状を知るために行われた調査(※2)によると、2019年の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」(世界最大級の広告賞の一つ)に応募した広告の中で、男性の登場人物の出演時間と話している時間は、女性の登場人物の約2倍でした。女性は世界の人口の半分を占めていますが、広告にはそれが反映されていないのです。
また、性的マイノリティーの人々は世界の人口の少なくとも10%を占めると推定されるにもかかわらず、性的マイノリティーが登場する広告は全体の1.8%でした。障がいを持つ人々は世界の19%を占めますが、広告に登場する割合は2.2%でした。それらに加え、女性の登場人物は露出度の高い服装をしていることが男性に比べて4倍も多く、また、体の大きな登場人物の5人に1人は“笑われ役”として描かれていました。