最も大切なのは企業文化

――先ほどD&Iは特に重要な分野というお話がありました。その必要性について、あらためて詳しくお話いただけますか。

佐谷戸 多様性の実現とは、人種・性別・年齢・障がい・性的指向・宗教など、様々な他者との違いを受け入れて尊重することを意味するものだと考えています。当社はそうした多様性の推進を、経営の根幹をなすものと位置付けています。

 当社には現在2人の障がい者アスリートが勤務しています。今回の東京大会で銅メダルを獲得し、大活躍した車いすラグビー日本代表キャプテンの池透暢(ゆきのぶ)選手は2015年以来、当社のアスリート社員で、当社の誇りです。もう1人の山口貴久選手も、池選手とともに前回のリオ大会で銅メダルを獲得した選手で、現在はマーケティング関連業務に従事しており、とても素晴らしいことだと考えています。

 社員同士が多様な価値観、バックグラウンドをもとに様々なアイデアを出し合って最適解を導き出すことができる環境を確保し続ける。このことが革新的なビジネスの創造につながりますし、当社の持続的な発展にもつながると確信しています。

――D&Iの中核をなすというジェンダーダイバーシティですが、女性活躍に関するものに絞って、どんな取り組みをしているか教えてください。

ステファニー スキル開発などの研修やメンタリング、エクゼグティブ向けトレーニングなど様々な取り組みを進めています。

 今社内で盛んに議論しているのが育児休暇を取得した女性に対してどうサポートしていくかということです。例えば、仮に産休・育休を2年間とったとしても、業務に復帰すれば同じポジションに就くことができるのですが、はたしてそれで十分なのかどうか、といった点などを議論しています。トップパフォーマーの社員だったら、同じポジションではなく、昇格させてもっと能力を発揮できる環境を整えるべきではないか、あるいはどんなサポートを提供するのが会社として適切なのか、など様々な意見が出ています。多くの女性社員は育児だけでなく、家事や介護などに追われていることもよくありますので、どのようにキャリア開発を支援していくかは非常に重要な課題だと思っています。

 先日、すごく能力がある女性社員からこんなことを聞きました。「もう疲れてしまった。キャリア開発なんていいから、ただ仕事をして帰れればいい」。もし、能力を十分に発揮できなかったり、その意欲が削がれてしまうような状況があるのであれば、何かを変えなければなりません。女性がキャリアを積極的に開発したいと思えるような環境や、自分の能力を活かして輝きたいと思えるような環境を用意することが重要と考えています。

――ジャンダーギャップを埋めるためには、トップのコミットメントが必要です。佐谷戸社長は、社員の皆さんに対して、D&Iの重要性について、どんなメッセージを発していますか。

佐谷戸 グローバルの全社員を参加対象とし、経営陣が直接話しかける「タウンホール・ミーティング」と呼ぶ会議を定期的に開催していますが、前回のこの会議で、ピーター・ドラッカーのCulture eats strategy for breakfast(企業文化は戦略に勝る)という言葉を引用しました。この有名な言葉にあるように、企業にとって戦略はとても重要ですが、企業文化はもっと大事なものです。先に述べた通り、D&Iを企業文化の中核とするのは、他社とは決定的に違い、当社を当社たらしめているものだと考えています。

「企業にとって戦略はとても重要ですが、企業文化はもっと大事なものです」
「企業にとって戦略はとても重要ですが、企業文化はもっと大事なものです」

 年1回発行しているサステナビリティレポートなどでもD&Iや女性活躍推進に関して情報発信しています。が、もちろんそれで十分ということにはならないと考えています。女性管理職比率30%を含む女性活躍推進の実現に向けた取り組みは、長く持続的に、そして社内外の変化に目を配りながら根気強く進めていかなければなりません。

 米国では、機会の平等を意味するイクオリティ(equality)と、結果の平等を意味するエクイティ(equity)が使い分けられており、近年ではエクイティの徹底が標榜されつつあります。日本企業でもイクオリティはすでに意識されていると思いますが、なかなかエクイティにつながっていません。そこには何らかの構造的な問題が存在すると考えています。

 女性管理職比率30%という目標の明示は、その達成に必要な構造的な問題の解決に取り組むというコミットメントを表明したことだと考えています。女性社員のキャリアパスの形成や昇格について、現実感を持って力強く後押ししたいと考えています。