156カ国に広がる世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワークに属するPwC Japanグループでは、グループをあげてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、デジタル人材の育成に取り組んでいます。同グループのデジタルアップスキリング(スキル向上)の現状やリスキリング(学び直し)によって広がる可能性について、PwC税理士法人で社内DX推進をリードする川崎陽子さん、PwCアドバイザリー合同会社でデジタルアクセラレーターとして活動されている大田シャリーさんに話を伺っていきます。
── 川崎さんがこれまでにリスキル・学び直しに取り組まれたご経験を教えてください。
川崎陽子さん(以下、川崎) 私は前職の時に長時間労働が続き、体力的にこのままやっていけるのか、自分のキャリアについて悩んだ時期がありました。そんな時に、仕事でお世話になっていた公認会計士の方に影響を受け、30歳過ぎに一念発起して公認会計士の資格を取得しました。その後、PwC税理士法人に入社して現在はさまざまな業種の税務コンサルティングに関わっています。会計士になったときはもちろんですが、入社後の異動でそれまでと違う業種を担当することになったときも、学び直しが必要になり苦労しました。同じ税務資料を作るにも、業界が違うとチェックポイントが異なるので、業界特有の知識を身につけなければならないのです。転職や異動のたびにリスキルや学び直しの必要性を感じてきました。現在は社会のデジタル化の加速に伴い、デジタルアップスキリングという課題に向き合っています。
── PwC JapanグループではDX推進のプログラムに力を入れていると聞きました。
川崎 はい、グループをあげてDX推進に取り組んでいます。具体的には「Learn(学ぶ)」「Work(協働する)「Share(共有する)」をテーマに、デジタルアップスキリングやリスキルのプログラムを実施しています。
学習コンテンツがたくさん用意されていて、私もそのうちの一つである「デジタルアカデミー」に参加しました。デジタルマインドセット・スキルの獲得を目的とした2日間の研修で、データ分析やRPA(Robotic Process Automation)の基礎を学びました。税務ではクライアントからさまざまな種類のファイルが提供されるので整理や分析に苦労するのですが、このようなツールを使うと効率的に作業できてとても便利なのです。「すごく便利だから使ってみて!」とメンバーを巻き込んで、デジタル化の輪を広げています。
「デジタルフィットネス」というモバイルアプリで、デジタルトレンドに関する5分~15分ほどの動画や音声データも視聴しています。こうした取り組みは一部の社員だけが参加するイメージがありますが、「デジタルアカデミー」や「デジタルフィットネス」は社員の8割以上が活用しています。社内外のプロジェクトでDX推進のリーダー役を担う「デジタルアクセラレーター」というプログラムは社内公募で参加者を募っていますが、定員の3倍もの応募がありました。デジタル化に前向きに取り組み、かつそれを実践で使っている社員が多く、マインドセットの転換や刺激になっています。

PwC税理士法人 パートナー 、社内DX推進リーダー
国家公務員を退職し、公認会計士の資格を取得してPwC税理士法人に入社。日系・外資系のさまざまなクライアントに対してクロスボーダー取引、インバウンド投資、企業再編などに関して税務コンサルティングを提供し、15年以上の豊富な実務経験を持つ。また、税務申告サービスも多数提供。PwC英国 ロンドン事務所へ短期出向した経験を有する。さまざまな自動化ツールやデータ可視化ツールを使って業務のデジタル化を推進
── デジタルスキルを磨くのは大変な面があると思いますが、モチベーションの源はどこにありますか?
川崎 人手でやってきたことを自動化すればラクになるイメージがありますが、それだけではなく、品質も格段に上がります。転記や入力でゼロ1つ間違えたら税務の計算が大幅に狂ってしまいますが、デジタル化によってそうした人為的ミスを減らせるのも大きなメリットです。税務の仕事はコツコツ地道な作業を積み上げていく部分がありますが、同じ時間を働くならデジタルツールを活用して単純作業は効率化し、空いた時間は付加価値を生む業務にかけたいし、そうした意識や働き方を広げていきたいですね。