体や心がなんだかしんどくて、仕事のやる気も下がりがち……。そんな“軽度不調”に陥らないよう、食を通じてケアするための研究が進んでいます。心身を健やかに保つうえでぜひ知っておきたい、最新の知見を紹介します。

漠然とした不調を定義し、予防・改善策を探る

 欠勤や、医療機関での受診が必要なほどではないけれど、いくつか該当する体の不調がある。でもこれといった対策がない……。職場で受ける「ストレスチェック」で、こうした対処法のなさに“モヤモヤ”を感じたことはない?

「医療従事者にとって、うつ病などの病気の治療とは異なり、ストレスによる不調に具体的な対策を講ずることは難しかった」。こう話すのは、京都府立医科大学大学院 医学研究科 生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二さん。

 しかし、「出社はできるレベル」でも、不調があれば仕事のパフォーマンスは下がりやすくなる。

 「何らかの疾患や症状を抱えながら働いている状態を“プレゼンティーイズム”と呼び、少子高齢化が進み、労働力が減少傾向にある日本において、大きな社会問題のひとつになっています」と、農研機構 食品研究部門エグゼクティブリサーチャーの山本(前田)万里さん。

 実際に、労働生産性の低下が企業に与える影響や損失は大きい。企業における健康関連総コストの推計で、プレゼンティーイズムが医療費を上回る最大のコスト要因であることが示されている(下グラフ)。

2015年度に東京大学が実施した調査研究で、生産性が共通する3企業・組織3429件の健康関連総コストを推計。プレゼンティーイズムはWHO/HPQによる相対的プレゼンティーイズム(同様の仕事をしている人のパフォーマンスに対する過去4週間の自分のパフォーマンスの比)、アブセンティーイズムはアンケート回答による病欠日数を採用。2014年度の医療費が平均約11万円だったのに対し、相対的プレゼンティーイズムは平均約56万円と最も大きな割合を占めた。(データ:「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン 平成29年7月」厚生労働省保険局)
2015年度に東京大学が実施した調査研究で、生産性が共通する3企業・組織3429件の健康関連総コストを推計。プレゼンティーイズムはWHO/HPQによる相対的プレゼンティーイズム(同様の仕事をしている人のパフォーマンスに対する過去4週間の自分のパフォーマンスの比)、アブセンティーイズムはアンケート回答による病欠日数を採用。2014年度の医療費が平均約11万円だったのに対し、相対的プレゼンティーイズムは平均約56万円と最も大きな割合を占めた。(データ:「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン 平成29年7月」厚生労働省保険局)

 この結果からも、働く人のパフォーマンスを上げ、労働生産性を高めるためには、見過ごされやすい不調ほど早めに対策をとる必要があるということが分かる。

 そこで、厚生労働省の「職業性ストレス簡易調査票」(下のチェックテスト参照)の項目に該当する、病気ではないさまざまな症状を「軽度不調」と定義。食を通じて「経度不調」の予防・改善する取り組みが、山本さんらの研究コンソーシアムで進められている。

出典:「職業性ストレス簡易調査票」(厚生労働省)の「B領域」の中から身体的ストレス反応に関する項目を抜粋。SIP食によるヘルスケア産業創出コンソーシアムでの軽度不調の尺度開発のひとつとして用いられている。
出典:「職業性ストレス簡易調査票」(厚生労働省)の「B領域」の中から身体的ストレス反応に関する項目を抜粋。SIP食によるヘルスケア産業創出コンソーシアムでの軽度不調の尺度開発のひとつとして用いられている。

 上記のうち、6個以上該当するようなら軽度不調の可能性が高い。また、軽度不調の主な症状には、上に挙げられた身体症状のほか、活気の低下、疲労感、イライラ感といった精神症状もある。ストレスが高くなるほど不安感や抑うつ感が強くなり、不眠や食欲不振といった症状も招きやすくなる(下図)。

 “軽度”のうちであれば食生活や生活習慣の見直しで改善される可能性があるので、早めの対策が欠かせないのだ。