最新研究で見えてきた軽度不調と栄養成分の関係

「軽度不調は個人の主観によるもの。多くの人に広く応用できる予防・改善方法を見いだすためには客観的な指標が必要です。そこで、健常な日本人1000人を対象に、網羅的な研究調査『すこやか健康調査』を進めてきました」(山本さん)

 調査内容は、普段の食事の内容や栄養調査、睡眠の質、腸内細菌の種類や割合、ストレスの度合い、遺伝子など多岐にわたる。「それらの蓄積データを分析することで、食と健康の関係性が解明されてきています」(山本さん)

 その成果のひとつに、一定量摂取することで、軽度不調と深く関係する栄養成分の特定がある。「現段階で相関が見られる成分は8つあり、ビタミン類のビタミンB6、ビオチン、パントテン酸、葉酸(いずれもビタミンB群の1種)、β-クリプトキサンチン(β-カロテンの1種)、ミネラル類のカリウム、マグネシウム、そして不溶性食物繊維です」(山本さん)

 もちろん、このような成分だけをとっていれば軽度不調に陥らない、というわけではない。「重要なのは日々の食事の栄養のバランスです。さまざまな成分は互いに絡み合って働くことで心身に作用し、不調のコントロールにつながると考えられます」(山本さん)

 とはいえ、忙しい毎日のなかで栄養バランスの取れた食生活を維持し続けることは難しい。

 そこで注目したいのが、農研機構と島津製作所が設立した「セルフケアフード協議会」が展開を進める「ジープラス(G-plus)食品」(下のコラム参照)。前述の8つの栄養成分中3成分以上を規定量含有する、同協議会加入企業の製品が対象となる。2023年春以降「ジープラス(G-plus)」マークが表示された食品や飲料が店頭に並ぶ予定だ。

「複数の栄養を満遍なく摂取して心身の健康を保つ、本来の食のあり方に立ち戻るきっかけになることを期待しています」(内藤さん)

 今後も軽度不調に関するデータ分析などは継続して行われる。「ジープラス(G-plus)食品」のさらなる進化にも注目したい。

新しいカテゴリー「ジープラス(G-plus)食品」とは?
 消費者庁の許可が必要な「特定保健用食品(トクホ)」や、消費者庁に届け出られた「機能性表示食品」とは異なる、セルフケアフード協議会独自の認証スキームによる民間認証食品。また、トクホは保健効能成分、機能性食品は機能性関与成分により特定の症状に対する効果や機能を持つが、「ジープラス(G-plus)食品」は複数の成分で栄養バランスを整え、軽度不調を防ぐことを目的としている。

 軽度不調と深く関係する8成分中3成分以上で、研究を通して明らかになった必要量(1食分の場合その3分の1以上、間食の場合その5分の1以上)を含有する、会員企業の製品が対象。同協議会の「統合健康栄養食品委員会」が定義した基準に従い、第三者機関が認証を行う。認証された製品には「ジープラス(G-plus)マーク」(上のロゴ)が表示される。

取材・文/やまきひろみ イラスト/PIXTA 構成/横濱啓子(remix-inc.)

●お問い合わせ
SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム(代表:農研機構)
事務局(SIP2-2B-healthcare@ml.affrc.go.jp)
山本(前田)万里さん
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
食品研究部門 エグゼクティブリサーチャー
山本(前田)万里さん 農学博士。筑波大学グローバル研究院教授。2022年4月から一般社団法人セルフケアフード協議会代表理事。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム研究代表者。
内藤 裕二さん
京都府立医科大学大学院 医学研究科
生体免疫栄養学講座 教授
内藤 裕二さん 消化器専門医として最新医学に精通。主な専門分野は腸内細菌叢、抗加齢医学、消化器病学。「京丹後長寿コホート研究」で腸内細菌叢の解析を手がける。一般社団法人セルフケアフード協議会 統合健康栄養食品委員会委員長。