第2部 日本におけるマイクロファイナンスの可能性
第2部では「日本におけるマイクロファイナンスの可能性」というテーマでディスカッションが行われた。マイクロファイナンスは仕事をスタートするために一歩踏み出す女性を支援するためのもの。それには支援を受ける女性たちがまず自分自身を見つめ、自分の強みや価値に気づくことが大切だという。そしてその先は起業アイデアを形にしていくことへとつながっていく。マイクロファイナンスの可能性を広げていくためのポイントは何か、3人のパネラーに日経xwoman客員研究委員の羽生祥子が聞いた。
岩下 千草 氏 グラミン日本顧問、PwC Japan合同会社
宇佐美 潤祐 氏 UNLOCK POTENTIAL代表取締役社長
コーディネーター:羽生 祥子 日経xwoman 客員研究員、羽生プロ代表取締役社長
マイクロファイナンスでシングルマザーの自立を支援
日経xwoman客員研究員 羽生祥子(以下、羽生) 第2部のテーマは「日本におけるマイクロファイナンスの可能性」です。最初に自己紹介とグラミン日本で取り組まれていることについてご紹介ください。まずは髙橋さん、よろしくお願いします。

髙橋歌織さん(以下、髙橋) グラミン日本で理事をしております。大学卒業後、大手生命保険会社に入社して14年勤務しました。その後、専業主婦をしていましたが、離婚の際に物理的・心理的に自立の難しさを体験し、自ら当事者としてシングルマザーの自立支援に携わっています。
グラミン日本には2017年、設立メンバーとして参加しました。マイクロファイナンスという仕組みが女性の自立のステップに合っていると思い、自立の機会が少ない女性に直接的な支援を行いながら、アドボカシー(擁護・代弁)活動、事業共創、支援者育成に取り組んでいます。多くの方々との連携による優しさの循環で次世代への貧困の連鎖がなくなることを目指しています。
シングルマザーの自立がなぜ難しいかというと、不安と孤独が大きな要因となっています。これは、情報の乏しさ、人とのつながりの乏しさ、偏見による心の乏しさが原因です。自分で情報を取るのも難しいですし、日々の生活で精いっぱいなこと、そして「助けて」という一言がなかなか言えずに不安と孤独の中にいます。
貧困の格差は情報と行動力の格差です。ですので、自立に向けた情報入手ができる、未来へ向かえる行動を起こせる、そうした寄り添いの環境サポートが大切だと思っています。
経済的自立がないと精神的自立も難しいので、経済的自立と精神的自立は同時に必要です。その2つをグラミン日本のマイクロファイナンスの仕組みで解決しています。慰め合いだけではない、スキル取得だけでもない。融資だけでもない。お金の壁も乗り越える、諦めずに未来へ向かえる仕組みです。
特徴は4つあります。1つ目は、無担保・低金利の少額融資で、生活資金ではなく、仕事をスタートするために支援すること。条件は働く意欲です。2つ目は、5人1組の互助制度になりますので励まし合える仲間とともに進めること。3つ目は、金融トレーニングで稼ぐ力、将来のためにお金をためる、増やす、生かす知識を学ぶこと。4つ目は定期ミーティングです。月2回、オンラインで集合ミーティングを行い、進捗を確認しています。この融資、コミュニティ形成、伴走支援、金融トレーニングにより主体的に行動できるようになります。
マイクロファイナンスの可能性を広げるために一番大切にしていることは信頼関係です。支援する側、される側という概念のないフラットな関係のもとで進むことが大事です。安心安全の場で全員参加し、みんなの前で発表してフィードバックをもらい、共感を得て進んでいくことが重要です。その中で自己理解ができ、他者理解を深め、価値観を知り、勇気を持って進むことができます。
マイクロファイナンスは「経済的信用がない層への融資」「与信なし」「貸倒率ゼロ目標」というチャレンジにはなりますが、このマイクロファイナンスの仕組みでピアサポート・ピアプレッシャー(支え合い・仲間内の圧力)により自立を実現しています。それには伴走者の存在が必要ですので、伴走者の育成にも力を入れています。
自立支援で大切なのは「共感とドライ」のバランス
羽生 続きまして岩下さん、どうぞよろしくお願いいたします。

岩下千草さん(以下、岩下) PwC Japanで、経営層向けのリーダーシップ開発に従事しています。前職時代からプロボノ(知識やスキルを公益のために無償提供する)活動でグラミンに参加しており、転職後もグラミンで顧問をしています。
グラミンに関わるようになったのは、私自身がシングルマザーだったからです。シングルマザーになった当初は、仕事を失うかもしれないという不安があり、頼る人もいないという孤独感に押しつぶされそうになりました。
もう一度自分を取り戻せたのは、周りの人たちが耳を傾けてくれたり、上司が大きな仕事を任せてくれたりしたからです。そこから私は経済的自立支援に関して、自分の可能性を信じられる環境が大事だと思うようになりました。
グラミンでは、シングルマザー向けの経済的自立に向けたワークショップを開発しました。シングルマザー自身が自分の強みや価値に気づき、起業アイデアを形にし、事業プランを作るワークショップです。その後、5人組を形成して融資を実行します。
さらに、支援者に寄り添うグラミンのサポーター向けに、支援者育成プログラムをアクセンチュアと共同開発しました。軸になるのが「共感とドライ」です。支援者に本当に寄り添い絶対的な安心を届けるための「共感」と、自立を促していくために客観的な支援を届ける「ドライ」の両方のバランスが必要になります。