しなやかにキャリアを積み重ねてきた、企業、部門のトップ3人。それぞれのキャリアストーリーには、ピンチや危機的な気分の落ち込みからの脱出方法など、学びが実に多い。その仕事観にも迫り、自分らしいキャリアを築くヒントをひも解いていきます。

トップリーダーたちのキャリア。一大危機からの脱出方法

 キャリアを切り拓いてきた女性リーダーたちによるトークセッション「女性リーダーに学ぶ! ワタシらしいキャリアを築くヒント」には、USEN(USEN-NEXT GROUP)の冨樫幹子さん、フューチャーアーキテクトの神宮由紀さん、ソフトバンクの小齊平康子さんの3人が登壇。モデレートは日経BP総合研究所の大塚葉上席研究員が務めました。

大塚葉(以下、大塚) 今日のトークセッションのテーマは大きく2つあります。「これまでのキャリア」と「これからのキャリア」。まずはみなさんに、これまでのキャリアを振り返っていただきたいと思います。

<b>冨樫 幹子</b>(とがし・みきこ)さん<br> USEN(USEN-NEXT GROUP) 事業開発統括部 マーケティング部長<br> 高校から中国語を学び大学卒業後、求人広告会社に入社。3年の営業経験を経て、クリエイティブ事業部へ移籍。部署の構造改革と並行してクリエイターとしても貢献し、数々の広告賞を受賞。その後はインターネット事業へ転籍をきっかけにゼロからクリエイティブ部署を立ち上げ、社長室案件や事業企画に関わる様々な業務を担当。21年にUSENに転職し、WEBマーケティング課とWEBデザイン課の部長として格闘中
冨樫 幹子(とがし・みきこ)さん
USEN(USEN-NEXT GROUP) 事業開発統括部 マーケティング部長
高校から中国語を学び大学卒業後、求人広告会社に入社。3年の営業経験を経て、クリエイティブ事業部へ移籍。部署の構造改革と並行してクリエイターとしても貢献し、数々の広告賞を受賞。その後はインターネット事業へ転籍をきっかけにゼロからクリエイティブ部署を立ち上げ、社長室案件や事業企画に関わる様々な業務を担当。21年にUSENに転職し、WEBマーケティング課とWEBデザイン課の部長として格闘中

冨樫幹子さん(以下、冨樫) 20代の頃に、モチベーションが大きく下がった時期が2度ありました。前職で、男性のみの部署に異動になり、妬みを受けて悩まされた時期と、同じ職場で一部事業の撤退により、仕事を共にしてきたメンバーのほとんどが解雇状態になってしまったという時期です。私のモチベーションが下がるのは、人との関わりで何かあった時だと、今、改めて感じました。

<b>神宮 由紀</b>(しんぐう・ゆき)さん<br> フューチャーアーキテクト代表取締役社長<br> フューチャー取締役<br> 手に職をつけ、また地方にも雇用を創出できるという可能性を感じ、大学卒業後、IT企業へ就職。その後フューチャーに入社し、コンサルタントとして流通サービス業を中心に数多くのプロジェクトに携わる。12年に退社し、2年間父の介護に専念。日本マイクロソフトを経てフューチャーに再入社し、19年よりフューチャーアーキテクト代表取締役社長。自身の介護経験から誰もが働きやすい環境づくりに力を入れている
神宮 由紀(しんぐう・ゆき)さん
フューチャーアーキテクト代表取締役社長
フューチャー取締役
手に職をつけ、また地方にも雇用を創出できるという可能性を感じ、大学卒業後、IT企業へ就職。その後フューチャーに入社し、コンサルタントとして流通サービス業を中心に数多くのプロジェクトに携わる。12年に退社し、2年間父の介護に専念。日本マイクロソフトを経てフューチャーに再入社し、19年よりフューチャーアーキテクト代表取締役社長。自身の介護経験から誰もが働きやすい環境づくりに力を入れている

神宮由紀さん(以下、神宮) 私は30代の頃、絶対に取らなければならない仕事が取れなかったことがあります。降格となり自分のふがいなさに落ち込むと同時に、一緒に頑張ってくれたプロジェクトのメンバーに申し訳なく思いました。でも、メンバーのみんなが励ましてくれたおかげで、もう一回頑張ろうと思えました。失敗した時こそ、仲間の力はとても大きいですね。

<b>小齊平 康子</b>(こさいひら・やすこ)さん<br> ソフトバンク 事業開発統括 投資事業戦略本部 事業推進統括部 事業推進部 部長<br> 日系、外資系コンサルティングファームにて通算9年間、M&Aデューデリジェンスや、事業再生・経営統合プロジェクトなどを担当。その後、ファーストリテイリングに転職し、国内外子会社の事業監査や業務改善に従事。17年ソフトバンク入社。RPA事業の立ち上げを経て、18年秋よりWeWork Japanをはじめとした、ソフトバンク・ビジョン・ファンド出資先の日本市場における事業推進を担当
小齊平 康子(こさいひら・やすこ)さん
ソフトバンク 事業開発統括 投資事業戦略本部 事業推進統括部 事業推進部 部長
日系、外資系コンサルティングファームにて通算9年間、M&Aデューデリジェンスや、事業再生・経営統合プロジェクトなどを担当。その後、ファーストリテイリングに転職し、国内外子会社の事業監査や業務改善に従事。17年ソフトバンク入社。RPA事業の立ち上げを経て、18年秋よりWeWork Japanをはじめとした、ソフトバンク・ビジョン・ファンド出資先の日本市場における事業推進を担当

小齊平康子さん(以下、小齊平) 冨樫さんのお話を聞いて、私がシンパシーを感じたことは2つあります。1つ目は、気持ちがすごく下がった後には、必ず浮上のタイミングがやってくるということ。何かにチャレンジし、それを抜けた先には、ギアチェンジしたかのように新しい世界が見えてくることがよくありました。2つ目は、浮き沈みを何度も大きく繰り返したことです。私の大きな失敗は、神宮さんとは逆で、チームメンバーをバーンアウトさせてしまい、チームを解散に追い込んでしまったこと。私はそれなりに充実感を感じていたので、メンバーにそう思えてもらえていなかったことがすごくショックでしたし、責任を感じました。以降半年ほど、部長職を離れ他のチームの動きを見ていて、やはり、1人で仕事をしすぎていたなと。チームでつくり上げられる仕事の大きさと、個人で頑張ってつくり上げられるものの規模とか効果は全然違うのだなと、そこでやっと分かりました。その後、また新たなチームを持てるチャンスをいただいたのですが、そこで、ギアチェンジしたのを思い出します。

大塚 人との関係性、チームビルディング、1人で仕事はできない。この辺りがポイントですね。

冨樫 私は日頃からメンバーのみんながいるから自分がいるという思いは絶対的にあるのですが、一方で凹んでいても弱みを言うことができないのです。そんな時、私はどうしてきたかというと、とにかく考えることをやめて、手を動かす仕事の量を増やしました。黒いモヤモヤを外に出さないように動きまくっていたのです。すると、自分に元気をくれる人とめぐり合えたのです。

大塚 確かに、仕事の悩みは仕事でしか解決できないということはありますよね。小齊平さん、神宮さんはいかがですか。

小齊平 私も冨樫さんの気持ちはよく分かります。私の場合、自分のメンテナンスの仕方は、テトリス、書き出す、その後やり切る、の3ステップです。まずは、ゲームのテトリスをひたすらやる。モヤモヤしている時って、頭の中に自分が何人もいて、ワーワー言っているんですよね。感情も、怒りとか焦りとか悔しさが何重奏にもなっていて、どの声が真の自分の声なのかがわからなくなってしまう。そんな時に単純作業をくり返すと、自分の中の声が整えられるような気がします。感情があらかた落ち着くと、次は書き出す。手で書くことで客観視できるようになるのです。そして、やることが見えたら、あとは突き進むのみです。

神宮 私も似たような感じですね。子どもの頃からスポーツをしていたので、何か壁にぶち当たると基本に戻るとか、基礎的なことをコツコツやるようにしています。そういう積み重ねが、一番の自信の回復につながります。また日頃から自分の言動を客観視するように心がけています。例えばスポーツなら、試合に出ている自分を監督として見るような感じでしょうか。仕事がうまくいかない時は課題ばかりに目をやると気が滅入るので、自分の良いところにも目を向けて、周りの人に「私の良いところを3つ言って」とお願いすることもありますね。すると、この人はこういうふうに思っていてくれたんだとか、もしかしたら私のこういうところに強みがあるんじゃないかと発見することがあって、元気をもらえます。