男女同数=平等なのか?

 話題は、医師と看護師の職務範囲に移りました。長時間労働を強いられる医師の負担を、看護師が担うことは難しいのでしょうか。

 アメリカに住んでいた経験を持つ瀬地山さんは「日本は看護師の地位が低過ぎるように感じる」と言います。「看護師は患者と向き合うプロフェッショナル。それなのに、看護師をぞんざいに扱う人もいます。アメリカでは、本当に医師がやらなければならないこと以外は、看護師が担います。日本でも、看護師をもっとプロフェッショナルとして認識する必要があるのではないでしょうか」

 宋さんはここにパターナリズムの問題がある、と言います。「技術は男性に任せて、傾聴や共感は看護師に任せておけばいいと。けれど、最近の若い世代の医師は、患者の気持ちを自分ごととして捉えるための研修を受けるようになっています。キャリア面でも、研修医のうちから産休に入るツワモノもいますし、下の世代から底上げされている感はありますね

 最後に、今後私たちができることは何かという議論に。起きてしまったことに対し「あり得ない」と怒るだけでなく、どうすれば女性を排除しようとする慣習と戦っていけるのか。まず、今回の議論の発端となった入試問題に関しては、透明性を確保するよう大学側に求めていくことが必須だという提案がなされました。

 瀬地山さんは受験者の男女比と、合格者の男女比を公開することが大事だと言います。「通常はそこにあまり差が出ないはずですが、明らかに差が出るのであれば、大学側は説明責任を果たすべきです」(瀬地山さん)

 「難しいのは、合格者を男女同数にすればよいのかということ。男女同数とすることに合理性はあるのかという問いが生まれます」と佐藤さん。「合格ラインが男女で異なるのであれば、それは男女差別に当たるのではないか。例えば、男子の合格点が80点、女子の合格点が85点なのであれば、男女同数であっても不平等に当たる可能性はあると思います」(佐藤さん)

「男子の合格点が80点、女子の合格点が85点なのであれば、男女同数であっても不平等に当たる可能性はある」(佐藤さん)
「男子の合格点が80点、女子の合格点が85点なのであれば、男女同数であっても不平等に当たる可能性はある」(佐藤さん)

 そして、「女性が自分らしく生きる」ことについても、佐藤さんと小島さんから力強いメッセージが提示されました。性別を理由に理不尽な経験をしたとき、私たちはどのような姿勢を示していけばよいのでしょうか。

 「今回の医学部入試の事件には、『女子はいらない』という、恐ろしいメッセージ性があると思います。報道に触れた今の女子生徒たちに、『結局、私たちは頑張っても報われない』なんて思わせたくはない。彼女たちらしく、自由に羽ばたいてほしい。『しょうがない』ではなく『絶対おかしい』と私たちが立ち向かっていくことで、若い女性たちに『やっぱり差別は駄目なんだ』『声をあげていいんだ』と感じてもらえたらと思います。弁護団でクラウドファンディングを行ったところ、多くの支援者から『自分も何かしたいと思っていた。行動できる場所を与えてくれてありがとう』と感謝されました。今後も憤りを行動に変えていきます。その積み重ねが未来を変えると信じています」(佐藤さん)

 「佐藤さんがおっしゃったように、若い世代のために“態度のモデル”が必要だと思います。有名人だけでなく、私たちも声を上げていい、怒っていいんだと。何かが起こったとき、どんな態度でそれに向き合うか。怒ること自体がメッセージとなることもありますが、『SPA!』のヤレる女子大生問題の時の女子大生のように、保毛尾田保毛男問題の時の松中権さんのように、建設的な対話に持ち込むことにこそ意義を感じます」(小島さん)

 その後の質疑応答では、「私は女性が嫌いだが、それでもここで働きたいか」と、面接の場で男性医師から聞かれた経験がある女性医師、男子学生に囲まれマウンティングに心が折れそうになっている女子学生などが、未来への希望を語りました。自然と発言者への拍手が起こり、一人ひとりの思いが熱気を生んでいました。

 大丈夫、未来は変えられる——。登壇者からも参加者からも、そんな気概が感じられるイベントとなりました。

取材・文・写真/ニシブマリエ