信頼関係を築いた「伴走ノート」

 でも近藤選手は諦めなかった。「必ず出場する!」という彼女の信念が日野さんを本気にさせ、消えかかっていた走ることへの情熱が再燃したという。「練習メニューはもちろん、近藤さんの発言や状態をノートに記録し、毎日メールのやり取りをして信頼関係を築きました。走り方をアドバイスするときも、彼女が不安になるようなマイナスな言葉は避け、やる気になる言葉を探して伝えるようにしました」

練習メニューや、視覚障害者ランナーにどう伝えれば走りやすいのかなどをつづった「伴走ノート」。6冊以上にも及ぶ
練習メニューや、視覚障害者ランナーにどう伝えれば走りやすいのかなどをつづった「伴走ノート」。6冊以上にも及ぶ

 合宿や遠征先で生活を共にし、どこまでサポートしていいか分からず落ち込んだりもしたが、自身の練習を終えた後に近藤選手と20キロを走るような日々を乗り切り、見事リオの切符を獲得。日野さんも自身の種目で自己ベストを更新し、長いトンネルから抜け出した。

リオデジャネイロパラリンピック女子マラソンでは、自分の親ほど年が離れている近藤寛子選手の伴走者として、前半20kmを走り、5位入賞をサポート
リオデジャネイロパラリンピック女子マラソンでは、自分の親ほど年が離れている近藤寛子選手の伴走者として、前半20kmを走り、5位入賞をサポート

 「最初は、障害者を支えるという意識が強かったけれど、近藤さんの夢や言動がいつしか私の支えになっていました。彼女のひたむきな思いに心を動かされ、『未奈ちゃんにサポートしてもらいたい』と言ってもらえたことが本当にうれしくて。人が成長するには、相互支援や相互信頼が大事だと学びました

東京パラリンピックを一緒に目指す井内菜津美選手と
東京パラリンピックを一緒に目指す井内菜津美選手と

 大学院ではソーシャルサポートを学びながら、女性や学生の伴走者を増やすべく、講演活動などを行ってきた。そして新たなパートナー、井内菜津美選手と支え合いながら、東京パラリンピックを目指す。

*:人と人の結びつきを示す概念、社会的支援

立命館大学陸上競技部コーチの高尾憲司さん(中央奥)が率いる、視覚障害者ランナーと伴走者のチーム
立命館大学陸上競技部コーチの高尾憲司さん(中央奥)が率いる、視覚障害者ランナーと伴走者のチーム

日野未奈子さんへの一問一答

Q1
ストレス解消法は?

A
シューズを洗うこと。ランニング用シューズに限らず、毎週末2〜3足のシューズを手洗いしています。きれいになったシューズを履いて出かけると、ストレスがリセットされるんです!

Q2
落ち込んだときの克服法は?

A
「汗をかく」「好きなものを食べる」「時間をかけて煮込み料理を作る」こと。料理は創作するより、レシピ通り忠実に作ることが快感です。(笑)

Q3
最近のマイブームは?

A
米ぬかを使ったスキンケア。京都の新洞食糧老舗の「京小町ぬか」を使用するようになってから、肌がツヤツヤになる効果にハマっています。

Q4
ケガ防止のために気を付けている点は?

A
食事と睡眠に加え、毎日湯船につかることを心がけています。あとは、決して無理をしないこと! アスリートですが。(笑)

Q5
今、一番関心があることは?

A2021年東京オリンピックとパラリンピック、25年大阪万博です。いずれにもなんらかの形で携わりたいという強い思いがあります!

構成・文/高島三幸 写真/HAL KUZUYA

日経WOMAN2019年3月号掲載記事を再構成
この記事は雑誌記事掲載時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります