アメリカでも、たった5年
「卵子凍結は始まって間もない技術なのです」
2013年、アメリカの生殖医学会が「卵子凍結は実験段階を脱し、医療と考えられる技術である」と宣言したのを受けて、翌年2014年には米フェイスブック社や米アップル社が女性の従業員に対し卵子凍結の助成金を出す社内制度を整えた。「卵子を凍結して出産を後回しにし、働くことを推奨したようにも見え、社会からは批判の声が上がりました」。アメリカでも卵子凍結が市民権を得たのはその頃から。つまり、先進的なように見えるアメリカにおいてでさえも、卵子凍結が本格的に行われるようになってからほんの5年しかたっていないのだ。
卵子凍結の社会的適応について、神里さんはこう解説する。
「せっかく卵子を取るなら、できるだけ数多く取りたいと考え、排卵誘発剤を使用し、卵巣に針を刺して卵子を吸引したりします。こういった行為は、多少なりとも女性の身体に負担を与えます。また、採卵の手術費用だけではなく、保存にも費用はかかります。しかも、卵子を凍結して保存したとしても、その凍結卵子を使って将来妊娠できる確証は高くない。これらを鑑みると、卵子凍結はお守りでしかなく、思ったほどの切り札にはならないかもしれません」
こうも言う。
若いうちに採卵するか、若いうちに自然妊娠するか
「若いうちに採卵したほうが将来の妊孕性を高めることにつながりますが、妊娠できる保証はありません。一方で、若いほど、自然妊娠の確率も上がりますし、子育てに必要な体力もあります。若いうちに卵子を凍結しておけば安心、と安易に考えることは禁物で、どのような人生を送りたいのか、自問自答していくことが重要です」
卵子凍結には、命の誕生に関わる重要な決断を伴う。さまざまな情報を集め、十分納得したうえでの行動が求められる。

取材・文/小田舞子(日経doors編集部)