アンチのスルーは「いじめを無視している」ことと同じ

 例えばインスタで夫・しみけんさんとの生活を描いている「旦那観察日記」でのこと。

 「ケンカして(相手のことを)もっと好きになった」、というテーマで投稿をした際、文脈や前後のストーリー展開を汲み取らず、「こういうことを一方的に投稿して、旦那さんが可哀想だと思います」や「あなたの愚痴のはけ口じゃないですよ」というコメントを書き込む人がいた。

 「そんな投稿に対して、ファンの方が『(投稿を)ちゃんと読んでください』とコメントしてくださるんですけど、それすら申し訳なくて。イラストエッセイを楽しみに来てくれたファンの方を、変なコメントをしてくる人との議論に巻き込むのは嫌だから、ブロックすることにしました

 しかし、デマや嘘、論点のズレた批判などで幾度の炎上を経験しても、はあちゅうさんは決して発信を止めようとしない

 なぜなら、「アンチをスルーするのは、いじめを無視するのと同じこと」だから。

 表には出て来ないが、インフルエンサーの中には、インターネット上だけでなく、リアルな生活でもアンチからの攻撃を受けている人もいる。例えば、子どものいるインフルエンサーの中には、児童相談所や警察に匿名でイタズラ電話をかけられるという被害に遭った人もいるそう。

 だからこそ、はあちゅうさんはアンチに攻撃されて泣き寝入りするのではなく、アンチと戦う姿勢を崩さない。アンチに対して、彼女が強気なコメントを返すと、「大人げない」と反応する人もいる。

 だが彼女は、「リアルな場、SNS上、対面している状況、どんなシチュエーションにかかわらず、人間に上下はなく、フェアな立場であるはずです。相手は一方的に悪口を言うことが許されて、私が反論することが許されないというのはおかしい」と話す。

 一方、炎上はネガティブな面だけでなく、社会に対する問題提起になっていることもあるのだ。

 2016年に話題となった、匿名の母親による「保育園落ちた 日本死ね!!!」というブログ投稿も、社会問題となっている待機児童問題に大きな注目を集めた。言葉使いが悪いと炎上したが、この投稿に共感する同じ悩みを持つ保護者が大勢現れ、国会でも取り上げられるまでに発展したのである。

 「どんな意見でも、賛成と反対はあるもの。自分の実現したい世の中のためなら、炎上覚悟で発信する勇気も必要です」

自分を前に進めてくれる情報を摂取する

 はあちゅうさんが今大事にしているキーワードは、「心の栄養」。今まではSNSを通して、ポジティブな意見に励まされるだけでなく、実際には会ったこともない人からの心無い投稿にも心を痛め、気持ちを振り回されていた。しかし今は、SNSの優先度を下げて情報を取捨選択し、本を読んだり、街並みを眺めたりすることを通して、「心の栄養」を摂取するように心がけているという。

 「私への仕事依頼はSNS経由がほとんどです。だからSNSが今も私にとってとても大切なツールであることには変わりありません。でも、例えば、子どもが生まれた時に子どもよりSNSを最優先してしまうような人にはなりたくない。目の前に存在しない他人の言葉で無意味に傷ついて、本当に大切な人たちに心配をかけたくもない。だから、今はSNSとの関係を『柔らかく』している最中です

取材・文/橋本 岬 写真/稲垣純也 取材日/2019年3月14日

はあちゅう
ブロガー・作家
はあちゅう はあちゅう 「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、読者と直接つながって言葉を届ける未来の作家の形を摸索中。著作に「とにかくウツなOLの、人生を変える1か月」「半径5メートルの野望」「通りすがりのあなた」「旦那観察日記」など。