乙女心をつかむ恋愛ゲームが人気を博して注目を集める「ボルテージ」を夫婦で創業し、副会長を務める東奈々子さん。子会社設立を目的とした3年間に渡る米国生活から、この度帰国しました。創業当初から「女性が働きやすい職場」を目指して東さんが情熱を傾けてきたこのテーマは、女性の社会進出が進んだ昨今、日本全体の課題としてメディアでも数多く取り上げられています。ライフイベント前の女性が多い会社の経営者の悩みや思い、女性活用やワークライフバランスを課題としたこれからの時代の「働き方」について、今後の少子化ジャーナリストの白河桃子さんが聞きました。全3回にわけてシリーズでお届けします。

自分がロールモデルになるという意識
東さん(以下、敬称略) 白河先生の本や記事は働く女性の実態を的確に捉えていらっしゃるので、常にウオッチさせていただいています。恋愛ゲームはなさいますか?
白河さん(以下、敬称略) 私自身はやりませんが、何が女の子たちを夢中にさせ、課金させるのかといったことにはずっと関心がありました。
東 女性の社会進出が進んだことが関係していると考えています。仕事が忙しくストレスはたまるけれど、時間もない。そんなときに寝る前の15分、携帯電話やスマホで手軽に癒やされることが受け入れられた大きな要因だと思っています。男性社会の中で肩肘張っていると、女らしさも封印しないといけない状況もあって、束の間「本来の自分」を取り戻せることも大きいようです。
白河 女性向けの商品がメインということは女性社員も多いんでしょうね。女性の平均年齢は何歳ですか?
東 正社員約300人のうち半数が女性で、平均年齢は28歳です。
白河 若いですね。離職率は?
東 2割です。
白河 それはすごい! IT業界の離職率は3割といわれていますからね。ちなみに女性の独身率はどれくらいですか?
東 8割です。結婚して子どものいる女性社員も1割います。それと、管理職以上の女性比率は36%なんですよ。
白河 独身が多いのは、仕事がきっと楽しいんでしょうね。
東 それはあるかもしれません。
白河 ゲーム業界全般にいえることですが、会社が楽しすぎるとよそに行く必要がないので、どうしても長時間労働になる。会社の中に出会いがないと独身比率は高まってしまうんですよね。
東 それは分かります。ワイワイ働くことが楽しい20代の時期ってありますから。個人的には社内恋愛は大いに推奨しています(笑)。私もパートナーの津谷(※ボルテージ会長)とは前職の博報堂で一緒の部署で、いわゆる半径100m以内の社内結婚ですから。
白河 それで、一緒にボルテージを起業された。
東 上司からは寿退社と言われました。女性が起業で辞めるより結婚で辞めるほうが理解しやすかったのだと思います。私自身は「女性が普通に長く働ける会社を作るんだ」という強い思いがありました。博報堂ではやりがいのある仕事に就いていましたが、結婚して子どもを産んで40代、50代になったらどうなるのだろうという不安がありました。ロールモデルがいないし、40代以降の自分の姿が見えなかった。
白河 辞められたとき何歳でしたか?
東 29歳です。起業後しばらく赤字が続いていた苦しい時代には子どもができず、4年目に黒字になってから3人の子どもに恵まれました。それからは、子どもを育てながら、働く母親として仕事との両立をしてきました。ボルテージでは、私自身がロールモデルにならなくてはいけないと。