他人を自分に置き換えることで見えてくるもの
母を亡くしてしまったクララの悲しみは察するに余りあります。優しい姉とかわいい弟の間で、かろうじて耐えてはいますが、グレてしまってもしかたがないほど。
クララだけではなく私たちも、怒りや悲しみで心がねじ曲がってしまったとき、冷静な判断はできないものですよね。この世で一番不幸なのは自分であると思い込み、頭の中で何度も怒りと悲しみを繰り返してしまう。
たった一度起きたことを、繰り返してしまうことで、何度もあったかのように感じる。そしてさらにねじれていく。
しかしこれが他人のことだとどうでしょうか?
少なくとも頭の中で繰り返すことはありません。そして、その人にとって何が救いになり、解決に向かうかを提案できるはず。
クララはまさに、迷い込んだ秘密の王国で、図らずもそれを目の当たりにし、同情し、共感し、そして自分事に置き換えて、大きく成長します。物語の冒頭と、終盤のクララでは、まるで人が変わったかのように。
クララの母に、死後の未来が見えていたかは分かりません。しかし、母が生前に準備していたクリスマスプレゼントである「卵の置物」が導く先には、私たちの仕事や人生においても大きなアドバイスとなるものがあります。
また本作は、秘密の王国に迷い込んでからが始まりではありません。オープニング映像の、シンデレラ城の花火からロンドンの町並みへと映像が移った瞬間からすでに物語は動いています。
現実世界と、秘密の王国。そのどちらも目が離せない展開であり、世界観の作り込みに酔いしれてください。特にクララの部屋のセットが、フィクションを超え本当に十数年そこに少女が住んでいたと思わせてくれるもので、私はスクリーンの隅々まで目で追いかけました。
クララと共に、この作品で成長できることは間違いありません。上映時間も90分ほどと短めなので、普段あまり映画を見ない方にもおすすめです。
それではまた。映画カタリストのゆうせいでした。
『くるみ割り人形と秘密の王国』

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文/永井勇成