病気の人の腸に健康な人の便を移植する「便移植療法(FMT)」。潰瘍(かいよう)性大腸炎などの難病に対する新治療法として2014年から臨床研究が始まり、注目されている。
FMTでは、生きた腸内細菌の塊である便を患者の腸に直接移植する。治療法自体は以前からあったが、13年にオランダの研究結果が米国の医学雑誌に報告され、がぜん注目されることに。抗菌剤の長期使用で起こる偽膜性大腸炎に9割以上の治療効果があったからだ(下記グラフ)。これを受け、潰瘍性大腸炎などの治療にも応用されるようになった。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性腸疾患の一つ。下痢や腹痛、発熱などの症状が続き、国の難病にも指定されている。患者数は年々増加し、16万人を超える。免疫異常などが原因とされる。
順天堂大学医学部消化器内科では、14年から20歳以上の潰瘍性大腸炎患者にFMTの臨床研究を実施している。「約40人が参加。治療結果が判明している約30人のうち、移植1カ月後にはおよそ4分の3の患者で症状改善が見られた。副作用やトラブルもなく、手応えを感じている」と同科の石川大助教は話す。

ドナーは専用の容器に便を入れ、提供。
ドナーはこれまで患者の家族に限られていたが、順天堂大学では今年8月から「20歳以上の健康な人」とした。血液と便の検査で感染症や寄生虫の有無を事前に調べる。