LINEの創業者で、現在は女性向けファッション動画サイトを運営するC Channel社長の森川亮さん。森川さんがこれまでの経験から、仕事をするうえで大切にしてきたこと、成功するために必要なポイントを、シンプルにまとめた『シンプルに考える』から、働く女性のみなさんにぜひ伝えたい考え方を紹介します。(森川さんは、10月24日の「日経WOMAN ネットワーキングフォーラム」にもご登壇いただきます。ぜひ直接、生の声でのメッセージもお聞きください。詳細は文末に)

社長は偉くない──。
僕は、そう考えています。別に、宣言したわけではありませんが、みんなもそう思っていたはずです。僕が社内を歩いていても気づかない人もいたし、挨拶されるわけでもない。でも、それで何も困りません。
僕は、事業がうまくいっている部門については基本的に口をはさまない主義です。なぜなら、うまくいっているときは、口をはさむよりもその組織をエンパワメントするほうがスピードも早くなり事業もうまくいくからです。とはいえ、うまくいっている部門に関しても、たまに現場のことで素朴な疑問が浮かぶことがあります。そんなときは、LINEで「どうして、そうするの?」などとメッセージを送るのですが、「ちょっと今忙しいんで、あとでお願いします」とスルーされたことも何度もあります。
でも、それくらいでいいと思っています。むしろ、僕が何かを言うことで右往左往されるほうが、よほど不安になります。
だいたい、LINE株式会社は「いいものをつくりたい」という人が多く集まっていますから、「偉い人」はむしろ邪魔にされるだけです。彼らが興味あるのは「偉い人」ではなく「すごい人」。自分よりも「いいもの」をつくり続けている人です。
社長が「いいもの」をつくっているのなら話は別ですが、そうでなければ基本的に社長には興味がない。僕も若いころは、「社長がエラそうだと、やりにくいんだろうな……」と思ったものです。むしろ、尖っている人は権威が嫌いです。だから、もしも僕がエラそうにしていたら、優秀な人から順にどんどん辞めていったような気がします。
そもそも、疑問があります。
「偉い人」であることに、どんな意味があるのかよくわからないのです。
「偉い人」とはどういう人物か? 権限、権力、権威などの力を背景に人を動かす人物です。だけど、それが本質的な意味でのリーダーシップとはとても思えません。
なぜなら、部下は仕方なく従っているだけだからです。それでチームの能力が引き出されるはずがありません。しかも、みんなに「言い訳」を与えてしまう。「社長がそう言ったから」「役員会でそう決まったから」……。そんな意識では、プロの仕事はできません。
では、リーダーシップとは何か?
僕は、リーダーとは「夢」を語る人だと思います。
「ユーザーはこんなものを求めている。だから、それを実現しよう」「ユーザーにこんな価値を届けよう」と語りかける。問題は、そこに、周囲の人たちの共感を集めるだけの説得力と情熱があるかどうか。あるいは覚悟かもしれない。「自分ひとりででもやり遂げる」。そんな覚悟が、みんなの共感を集め、「夢」を実現するひとつのチームを生み出すこともあります。
そのチームを動かすエンジンとなるのは、「夢」に共感するメンバーの自発性です。彼らは、「偉い人」の指示に従うのではなく、「夢」の実現のためにそれぞれの領域でもてる能力を存分に発揮しようとします。そして、そんな自立したメンバーの先頭を切ってチームをリードできる人こそが、本当のリーダーだと思うのです。
だから、リーダーシップを身につけるには、必ずしも「偉い人」になる必要はありません。もちろん、権限が不要だと言いたいわけではありません。組織運営上、権限は不可欠です。ただ、権限を背景に人を動かすのはリーダーの本質ではない。自分の「夢」で人が動かせるかどうか。その一点が、リーダーシップの本質なのです。
そして、そんなリーダーシップをもつ社員が多い会社が強いのだと思います。だから、まず、社長である僕が「偉い人」にならないことが、大事だと考えてきました。
むしろ、「偉い人」になると危ない。
もし社長が権力や権限に安住してしまい、世の中の動きやユーザーのニーズ、また現場の最前線でユーザーと対峙(たいじ)しているメンバーの意見をないがしろにして、会社を誤った方向に導いてしまったとしたら……。想像するだけで、恐ろしいことです。
<日経WOMAN Networkingフォーラムプレミアム2015>
日経WOMAN・日経ウーマンオンライン編集部がお届けする、働く女性たちの学びと交流の場です。基調講演で、森川亮さんに、本では読めない貴重なお話を、たっぷりお伝えいただきます。
日時:2015年10月24日(土) 9:55~20:00予定
場所:東京コンファレンスセンター・品川(JR品川駅港南口(東口)より徒歩2分)
◆ 詳細はこちら ⇒ 日経WOMAN Networkingフォーラムプレミアム2015