連載「おうちで性教育」では、自分の体を大切にしていくことを中心に、どう「性」について子どもたちに伝えたらいいか、様々なジャンルの方に取材してきました。最終回は、出産・育児ジャーナリストの関川香織さんが、公立小学校の校長先生と共に、これからの日本の性教育に必要なことってどんなこと?について考えてみました。
性教育をとりまく「社会背景」が変化している
今回お話を聞いたのは、東京都江戸川区立南葛西第三小学校の淺野 努校長。淺野さんは、創作活動や表現活動を通じて「まぜこぜの社会を目指す」一般社団法人「Get in touch」でも活動しているユニークな先生です。淺野さんは南葛西第三小学校でLGBTについての公開授業をするなど、「誰も排除しないMAZEKOZEの学校」を目指した学校運営をしています。

2018年の3月、足立区の公立中学校が、避妊を含めた性についての授業を行い、東京都議会から「行き過ぎた性教育をした」と批判を受けたというニュースがありました。この報道があったとき筆者は、1997年に東京都日野市で起きた「七生養護学校事件(※)」を思い起こしました。あのときのように、また性教育についての規制が厳しくなってしまうのだろうか、と危惧しましたが、1990年代とはずいぶん違う経過をたどりました。
このことだけがきっかけではなかったかもしれませんが、2019年春、東京都教育委員会の「性教育の手引」が見直され、十数年ぶりに改訂されました。
関川(以下――) このことについて、淺野さんはどう考えますか?
淺野努さん(以下、淺野) やはり社会背景が変わってきている、ということを感じています。今の大人世代は、性教育というと『生殖、妊娠、出産、避妊』について教えることだと考えがちです。しかしそれは一部であって、性教育でいちばん大切な部分は、命の大切さを伝えることであり、自分も他人も、心と体を大切にするということです。こうした体を含めた命の大切さについて広く教育することは『包括的性教育』と呼ばれ、人権教育の一部なんですよね。そのことを社会全体がだんだん分かるようになってきた、という背景があると思います。
―― 実際には、淺野さんの学校ではどんな性教育が今、されていますか?
淺野 小2までは道徳や生活科、小4から、保健、理科などの授業で、体の変化について学んでいて、1年生から、赤ちゃん人形を使って命の授業をしています。

授業では『おへそって、なんであるんだと思う?』という素朴なことから話を始めます。みんながママのおなかにいたときに、ここでママとつながっていたんだよ、栄養をもらうための管があって、それがとれておへそになったんだよ、生まれたころはこの人形みたいに3㎏くらいしかなくて小さかったのに、今はこんなに大きくなって、みんなの体はすごいよね!……という話をします。子どもたちは、みんな熱心に聞いていますよ。
そのほかにも、PTAが外部講師を呼んで授業を開催したり、私がLGBTについての特別授業を企画したり、といったことをしています。
―― 義務教育では性教育はほとんどされていない、といわれていましたが、少しずつ変わってきているのかもしれませんね。もちろん、学校によって、地域に寄っての差はあるかもしれませんが、徐々に広まっていくのだと感じます。そんな社会背景の変化という意味で、肝心の子どもたちはどんな環境に置かれているのでしょうか。性犯罪、いじめ、自殺、といった、子どもたちの命に関わるさまざまな問題は解決されてはいません。
淺野 昔と大きく違うのは、やはりインターネット、SNSです。うちの小学校でも、防犯についての出張授業を警察の方にしてもらいました。そこで見た動画の内容は、こういうものでした。
自分の写真をうっかりインターネットにアップしてしまって犯罪に巻き込まれるという怖さについては、子どもたちにも伝わっています。今は、インターネットによって、自分だけの部屋の中で、なんでもできてしまう世の中。本を買う、借りてきたDVDを見るだけなら、一方的に情報を受けるだけで、そこから犯罪にはつながりません。ところがインターネット、SNSの場合は、こんなふうに犯罪に直結してしまう。今の子どもたちは、簡単に犯罪に巻き込まれる環境にあります