「死」についてざっくばらんに話をしたい
―― キャンサーペアレンツでは、最近はどんな活動をされているんですか?
西口 これまで東京、名古屋、大阪でオフ会などのイベントをやってきたんですが、今年は福岡に進出したいと考えています。ウェブ上だけでなく、リアルなつながりをもっと増やしていきたいと考えています。
それから、医療者と患者もつなげていきたいです。昨年、家族や仕事、食事のことなどをテーマに、医療者と患者が同じテーブルに着いて意見を出し合うカフェを開きました。患者側からは、がんになって食べられなくなったものとか食事で困ったことなどの話が出て、医療者からは患者にどういう指導をしているかとか、逆に医療者にはどんな困り事があるかなどの話題が出ました。
医療者からは「患者さんの生の声を聞く機会はなかなかないので貴重な経験だった」といった感想がありましたし、患者側からも「医療者には医療者で悩みがあると分かった」というような声が聞かれました。有意義な会だったと思っています。
―― 今年はどんなテーマを予定されているんでしょうか?
西口 一般的にタブーとされている「死」というものについて、医療者と患者とで話し合える場が持てたらいいなと思っています。医療者は、病気だけではなく死にも向き合いながら仕事をしています。そして、患者である僕らは多かれ少なかれ死を意識しながら日々を生きている。そういう人たち同士で、死についてざっくばらんに話をしたい。そういう場をつくりたいと考えています。
それと、ウェブサイトのリニューアルも進めています。もう少し使い勝手のいいサービスにして、それと同時に、次の開発も進めていこうというところです。
―― 「次の開発」とは、どういうものですか?
西口 がん患者が日々アクセスしている情報とか、どんなタイミングで何をしているのかとか、そういったデータを蓄積していくことによって、医療やその研究、患者の行動分析、ひいては就労支援などにつなげていければと考えています。それが、社会を変えるきっかけになったらいいなと。
―― キャンサーペアレンツは、そもそも西口さんが「自分ががんになったことについて子どもにどう伝えたらいいか分からない」という個人的な相談をできる相手、場所があったらいいなと思ったところから始まったというお話がありました。そこからさらに先に進める段階に来たということですね?
西口 キャンサーペアレンツの会員の中には、自分から何かを発信したい、社会の役に立ちたいという人たちがいます。情報を発信したり、絵本を作ったり、学校へ話をしに行ったり。もちろん、単にがんに関する情報が欲しいとか、誰かと話がしたいという人たちもいるので、その人たちのためにイベントやサイトの運営はしっかりやりながら、さらに「気持ちのステージ」が上がった人たちに対して、発信の場や機会をどうやって提供していけるかを考えています。
そういう人たちの力を社会につなげていくことができたら、もっと情報が外に発信されていくことになるし、受け取った人たちはそれをもとにまた違う研究や事業をしようというきっかけになっていく。そうなればなるほど、社会はもっと変わるんじゃないかと思うんです。
―― がん患者を取り巻く環境や周りの意識について、こうなったらいいというような理想みたいなものはありますか?
西口 患者も社会も、もっとお互い主体的に関わっていければいいと思います。
今までのがん患者の活動は、自分の権利を主張するとか、支援をお願いするというスタイルが多かったように思います。確かにそういうことも必要だと思いますが、僕個人としては、やっぱり患者側も主体的に社会と関わっていくことがとても大事だし、社会の側も「サポートする」という意識ではなくて、「一緒に何かをやる」という意識を持ってもらいたいと思うんです。患者側が何かをギブして、社会もテイクを要求するということですね。
―― がんの親座談会でも「サポートされてばかりだとモヤモヤする、自分にもできることをやっていきたい」というお話がありましたね。
西口 小さいことでも何でもいいので、そのきっかけになるようなことをしていきたいですね。
―― 後編に続きます!

(取材・文/荒木晶子、日経DUAL編集部 撮影/阿部昌也)