孫ができて、父の作品に変化が生まれた
土屋家って、誰かと競争したいという気持ちが一切ないんですよ。自分がどこに満足するかということを常に考えている。よりいいもの、喜んでもらえるものをという気持ちは、父親からいつも教わってきたことです。それって、好きだからこそ持ち続けられる感覚じゃないでしょうか。思えば両親も、創作活動をしていて何かを愚痴ったりするような、後ろ向きな姿を見たことがありません。
僕も頑張って仕事をしている意識はないし、とくにRAG FAIRを1回休止してソロになってからは、頂けた仕事はありがたくてやっていることばかりです。そうじゃなきゃ、家に帰ってそんなに妻孝行できません(笑)。たまにバブル時代を知っている事務所の上の人に、「もっと天下を取るぞ、みたいなことを考えて!」って言われるんですけど、僕の場合、誰かに勝ちたいみたいなことでは楽しめないんです。もっと毎日を楽しもう。欲がないって強いんですよ(笑)。
息子が生まれてからは実家に帰ったり、両親がうちに来たりして話す機会が増えましたが、やっぱり親への感謝の度合いは、息子が生まれる前と後では数倍違います。
父親は70歳を超えた今もどんどん成長しているから、話が面白いんですよ。今年、全国の高島屋を巡回する個展を開いたのですが、ずっと風景画を描いてきた人が、今回はアシカとかフクロウとか、生き物を多く描いていたんですね。それがとってもよくて、「最近、生き物を描くんだね」って話したら、「孫が生まれてものの見方が変わった。生きているものの温度をすごくいとおしく感じるようになった」って。はあーって思いました。
競っているわけではないのですが、やっぱり父は目標とすべき存在です。今回の作品の中には、僕の知らない土屋禮一がいました。自分もいくつになっても父のように成長し続けたいし、息子に「うちの父親、すごいな」って思われるようでありたいなと思います。
(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美 写真/鈴木愛子)
