家のリビングで椅子に座る、という行為において、考えることはあまりありません。ですが、自然の中で「座る」となると、考えることがたくさんできてきます。まず、どこなら座れるのか、座り心地がよいのは石の上なのか草の上なのか、斜面だとどうなのか、などですね。

 座るという単純な行為一つとっても、外から受ける刺激はたくさんあり、考えなくてはいけないことが山ほどあります。選択肢が多いということは、失敗することも多いでしょう。乾いているように見えたけど、実は湿っていて、お尻が少しぬれてしまった、などの失敗と経験が積み上がることもあります。室内にいるときより、五感への刺激の種類と量は圧倒的に豊かだと思います。

不安定な環境で何かをすると、同時に考えなくてはいけないことが多い

 「『うちでテレビを見ている』ときよりも『ピーラーでじゃがいもをむいている』ときのほうが前頭葉が活性化する」と以前、脳科学の専門家の方に教えてもらいました。さらに、ピーラーよりもナイフでむくほうが前頭葉は活性化するそうです。ピーラーより、ナイフのほうが角度や押さえ方、力の入れ具合など同時に考えないといけないことが多いからだそうです。

 安定した環境で何かをするより、不安定な環境で何かをしたほうが、同時に考えなくてはいけないことが多い。同じ鬼ごっこをするのでも、空調が完備されて、均一に平らで、砂や土もない体育館でするより、暑かったり寒かったり、起伏が激しかったり、足元に根っこや石が転がっているような外でするほうが子どもにとって刺激は豊富で、メリットも大きいわけです。

 さらに、社会的なメリットもあります。自然のなかで他人と何かをしようと思うと、「こっちへ行こう」とか「こういう遊びをしよう」などと合意形成をしていかないといけません。コミュニケーションを取らないと何も進まないため、コミュニケーション能力も高まります。

 また、大人も子どもも自然の中にいると、「自然にはかなわない」という謙虚な気持ちを抱きます。その結果、親も子どもも素直になる傾向があります。そのような状況で親子が対話すると、普段より掘り下げた会話ができます。考える深度を深めたり、視野を広げたりもしやすい。自然の中ではぜひ、「へー、どうして、そんなふうに思ったの?」など、いつもより一歩踏み込んだ会話をしてほしいですね。

遊びには「静」と「動」がある

 話は変わりますが、遊びの種類を親が知っておくことも意味があると思います。これまでの回でもお話ししてきた通り、遊び方を決めるのは大人ではなく、子どもです。大人はきっかけを与えるだけ。でも、「静」と「動」という遊びのバランスを知っていれば、そのきっかけを考える手がかりになるかもしれません

遊びの種類を親が知っておくことも意味がある(撮影:長谷部雅一)
遊びの種類を親が知っておくことも意味がある(撮影:長谷部雅一)