育休は、長きにわたる育児の“象徴”

 そもそも、「育休を取ること自体が目的化してはならない」と武石さんは指摘する。「育児休業さえ取れば、男性は育児をしたことになるのかと言えば、違うはず。仮に育児休業を取らなくても、例えば短時間勤務を夫婦で取るなどして、育児をシェアする選択肢もあります。育児休業は男性の育児関与の“象徴”ではありますが、すべてではない。乳幼児期だけでなく、その後も含めた育児全体に男性がどう関わるか、という視点が大事です」(武石さん)。

 武石さんは、現行の育休制度を生かしつつ、男性がより育休を取りやすいような仕組みの検討を提案する。

 現在の育休制度では、保育園に入れない場合は最長2年まで育休を延長できる。「これが、女性だけが2年休むという事態を招き、『パパ・ママ育休プラス』(夫婦が交代で育休を取れば1年2カ月まで期間を延長できる制度)が形骸化しています。育休を延長する際の条件として、『パパも育休を取った』という項目を加えてはどうでしょうか。男性育休義務化の前に、今ある制度を見直すことで、育休取得を推進することはできると考えます」と、武石さんは話す。

 山口さんも、「現行制度でも男性は育休を取れる。義務化の前にできることがあるのでは」との意見だ。

 山口さんが提案するのは、スウェーデンの育児休暇制度のようなスタイル。「育休は夫婦合計で一定期間(例えば1年半)。そのうち一定の日数(例えば3カ月)は父親/母親が取得し、もう一方の親への譲渡はできない」というものだ。

 「育休は3日や1週間ではあまり意味がありません。女性だけが長く休むより、夫婦で休職期間を分かち合ったほうが、その後の育児も互いに協力しやすい。ただし、決められたタイミングで予定通り職場復帰するためには、いつでも保育園に入れるよう、待機児童問題を一刻も早く解消することが必要です」と指摘する。

山口理栄
育休後コンサルタント。総合電機メーカーの設計開発部門で2度育休を取り、部長職も務める。2010年6月に独立。企業や官公庁、自治体にコンサルティングやセミナーを年間約200回提供。個人向けに育休後カフェ、育休後面会相談などのサービスを提供。著書に『改訂版 さあ、育休後からはじめよう ~働くママへの応援歌』(労働調査会出版局、共著)など。
武石恵美子
法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は、人的資源管理論、女性労働論。労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授などを経て、2006年4月より法政大学。『男性の育児休業』(中公新書、共著)など著書多数。厚生労働省「仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会」座長も務めた。

取材・文/日経DUAL編集部 久保田智美 イメージカット/PIXTA