生命は最後まで上を向いて進んでいる
――― そういえば、モンテッソーリ教育「カエルのお母さん」の落とし穴で出ました、6歳までの「落とし物」が大人になった時に、持ち主を探しにやってくるとは一体どういう意味があったのでしょうか。
高根 「落とし物」にはポジティブな落とし物と、ネガティブな落とし物の二種類があります。まず、ネガティブな落し物についてお伝えしますと、長い人生の中ではたくさんの誘惑がありますよね。権力への愛、所有への愛、安易な生活への愛など、さまざまです。こうした誘惑を乗り越えられるのは発達の四段階で十分な経験を積んだ成熟した人格者でなければ、難しいとモンテッソーリは言っています。つまり、子どもの頃、自分で選ぶことを知らずに、深い集中を体験しなかった子どもはこうした誘惑に陥りやすい傾向にあるとモンテッソーリは指摘をしているのです。厳しいですね。とはいえ、モンテッソーリの教育は希望の教育です。そこには必ず光の側面があります。しかるべきタイミングで、十分な経験を得られなかった場合でも、やりそこなった生命のプログラムは挽回のタイミングをうかがって、何度でも現れます。それはお試しであると同時にチャンスでもあるのです。
例えば、子ども時代に、心の奥に隠されて気づかなかった興味対象が、大人になってからふとよみがえることはありませんか? 幼い頃、敏感期の力を借りて習得できれば、いとも簡単に吸収できたかもしれないことが、敏感期のタイミングを逸して大人になった後で体得しようとすれば、かなりの努力が必要になります。それでも「やりたい!」という衝動が湧き出てくるなら、その興味は本物です。時間はかかるかもしれませんが、必ず「できた!」という喜びに包まれる日が来ることでしょう。
モンテッソーリが天国に旅立つ前に完成した発達の四段階のグラフに書かれた矢印はどれも上を向いています。生命は最後まで上に向かって進んでいる。子どもの可能性は無限。希望の光です。ここに、モンテッソーリ教育のエッセンスが凝縮されていると思いませか?
学校法人 高根学園 理事長

http://kindergarten.montessori.ed.jp/
取材・文/砂塚美穂 写真/花井智子