12月7日に公開されるドキュメンタリー映画『旅するダンボール』。段ボール・アーティストの島津冬樹さんが、「ひたすら好きでたまらない」という段ボールを巡る旅を追いかけています。
国内随一の「段ボール・アーティスト」として美術界で高く評価されている島津さん。子どものころから、学校の勉強には見向きもせず、ひたすら、その時々で好きなことを追求してきました。両親はそんな島津さんを叱ることなく、温かく見守ってくれたそうです。
島津さんが両親にどのように育てられ、いかに才能を開花させたのか。「段ボール・アーティスト」としてのこだわりや、これまでの軌跡について伺いました。
拾ってきた段ボールが、クオリティの高い工業製品に
段ボールは、本来、荷物を入れて運ぶためのもの。お目当ての荷物が手元に届いたら、その入れ物である段ボールは用済みで、あとは処分するか、リサイクルに回すかするのが普通です。
島津さんの作品は、そんな段ボールの「要らないもの」というイメージを覆す「かわいくて、カッコいい」にあふれています。財布、コインケース、カードケースは、どれも見た目がおしゃれ。思わず手に取って、細かい部分までじっくり見てみたくなるクオリティの高いプロダクトです。しかも、1点、1点が集めてきた段ボールからつくった、世界にたった一つのオリジナルの商品。
「段ボールは耐久性がある素材なので、2年くらいは十分使ってもらえると思います」と島津さん。
そのアイデアやデザインの美しさは高く評価されており、国内外の美術館で展示されているほか、セレクトショップでも販売されています。

「素材として使うのはごく普通の段ボールです。道に捨てられている段ボールを拾ったり、市場やスーパーに出かけて気に入る段ボールを探したりもします。集めた段ボールのストック用に、自宅には専用の部屋が一つあるくらい。例えば古い時代のコカ・コーラの段ボールとか、特に気に入っているものは、もったいなくて作品にしないでそのままとってあります」と笑います。
気に入った段ボールを探して、これまで日本全国はもとより、世界30カ国を旅してきました。

財布を落とし、段ボールで急ごしらえしたことがきっかけ
島津さんが段ボールに目覚めたのは、多摩美術大学に通っていた学生時代に遡ります。たまたま財布を落として、その代わりとして手元にあった段ボールで財布をつくったのがきっかけでした。
「何の変哲もない段ボールが、この世にたった一つだけの財布に生まれ変わった瞬間、自分の中でスイッチが入ったような気がします」
それ以来、「とにかく段ボールが好き!」という熱い思いは高まるばかり。卒業制作に段ボールの財布の作品集をつくり、教授からは絶賛されます。大学卒業後は広告代理店の電通に入社しますが、3年後には、段ボール・アーティストとしての活動に専念することに。
「最終的にはアーティストとしてやっていくつもりでしたが、社会を経験しておくことも必要だと考えて就職しました。電通時代は、色々勉強させてもらったと思っています」
映画では、電通時代の上司や仲間がインタビューに答えながら、当時の島津さんの様子を語っています。クライアントとの打ち合わせに行く途中、段ボールを見つけ、それを路地裏に隠して、遅れてきたエピソードなどが苦笑混じりに語られる一方で、その才能が一目置かれていたことが伺えます。
段ボールの話になると、目を輝かせ夢中で話し出す島津さん。
この人は、段ボールに恋をしている──。
そんな言葉がぴったりなほど、好きなことをひたすら追いかけている様子には、羨ましさを感じます。

そんなふうに自分の好きな道をとことん追求できる人生。それは、子どもの幸せな人生を望む親にとって、一つの理想形でもあります。素直に自分の強い思いをひたすら追いかける島津さんは、いったいどんな子ども時代を過ごしてきたのでしょうか。