自分で何とかしたくてもできないこともある
── どんな感想が寄せられましたか?
竹山 ブログでは、SNSなどでいただいた感想を抜粋して紹介しているのですが、「自分にも自閉症の子どもがいるけれど、周りにどう説明したらいいか分からず、『病気みたいなもので』と説明するにとどまっていた。でもこの絵本は、言いたかったことを全部代弁してくれている」とおっしゃってくださるお母さんが数多くいらっしゃって。自閉症以外の障害や病気のあるお子さんの親御さんからも、同じようなコメントをいただくことが多いです。
実はこの絵本の本文では、一言も「自閉症」とは入れていないんです。それは障害にとらわれることなく、障害というものがどういうものなのか、自分で何とかしたくてもできないこともあるんだという、根本的なところを理解していただきたかったからです。
── 意外な感想もありましたか?
竹山 意外だったのは、福祉施設(作業所)の施設長さんや職員の方が買いにきてくださったことですね。子どもの頃のことを書いたものなので、成人の方と接する施設で何か役に立つのかしら……と思ったのですが、「自閉症がどういうものかということが7分程度で理解できるこの本は、新人教育にとてもいい。経験ある職員にとっても基本に立ち返らせてくれるいい本だ」とおっしゃっていただきまして。
自閉症の人には怒鳴りつけるような指導はしてはいけないんですね。記憶の仕組みや指令の仕組みが違うため、フラッシュバックやトラウマを起こしてしまうので。成人の場合、力がありますのでパニックを起こして暴れると対応が大変ですが、「暴れているということは、その人が困っているとき、つらいときなんだという、大事なことを思い出させてくれる」とおっしゃられて。
── 子どもが理解できる本は、大人にとってもすんなり障害を理解する助けになりますね。
竹山 そう言っていただけるとうれしいです。発達障害がある当事者の方からは、「なぜ自分は人と違うのか、長年つらい思いをしながら生きてきましたが、これを読んだときに『自分は発達障害だったんだ』『自閉症だ』と気付いて納得しました」という感想もいただきました。そして「『自閉症でもいいんだ』『皆違っていいんだ』と思えた」「自分の親は理解してくれなかったけれどすずちゃんママは理解してくれていていいなあ」なんて感想も。
さらに障害者ではないけれど、何かしら自身をマイノリティだと感じているような方からも、「違っていいんだなあ」と同じようなコメントをいただくんですよ。例えば絵本や自閉症には縁がなさそうな独身男性が、アトリエで開催された原画展を見にいらした際、紙芝居の読み聞かせを聞いて涙を浮かべながら買ってくださったりして。
どんな人にも「違う」ことによるつらさやストレスはあります。障害もその「違い」の一つで、自分たちと変わらない身近なことと感じてくださる方がいらっしゃる。そのことに気づけたのは、私にとっても大きな経験になりました。
── 後編に続く。
フリーライター

(文/日経DUAL編集部 山田真弓)