掃除の時間に曲を流し、サビでダンスを踊る“ダンシング掃除”など、子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が話題の東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生。「ぬまっち」の愛称で知られ、現在小学5年生の担任を受け持つ現役の先生です。ぬまっち先生に、子どものやる気を引き出し、勉強が楽しくなるコツを教えてもらいました。
大人が横から手や口を出すと、自分でやりきった体験にはならない
――先生は、子どもの主体性を伸ばすために様々な工夫をされていますよね。子どもの主体性を伸ばすためには、親はどんなところに気をつければいいんでしょうか。
沼田先生(以下、ぬまっち) そもそも、親が子どもの伸びる機会を奪うことがあります。例えば、学校で子どもが牛乳をこぼしたときに、「あら大変!」と先生が拭きにいっていたら、子どもは「こぼしました」と言えば掃除をしてくれることを学びます。
僕は「先生、牛乳こぼれた!」と1年生が言いにきても、「こぼれたんだ。ふーん、大変だね」と返すんです。子どもは「え!?」と言いながら帰っていく。また違う子が「先生、こぼれた!」と言ってきたときに「牛乳がこぼれたことは知っています。でも、先生にこぼれたと言ってもあの牛乳はなくならないよ」と言うと、子どもが自分でこぼれた牛乳を拭いて「先生、こぼれたけれど拭いておいた」「ありがとう」となるんです。
子どもが皿洗いをしたいと言ったときに、やってみなさい、と言ったものの、やっている最中に水が飛んだり床がびしょびしょになったりするのを恐れて、お母さんが横から口を出し続ける。そうすると、やった体験にはなるけれど、自分でやりきった体験にはならないんですよね。もし皿洗いをさせるなら、床は濡れる覚悟を決めて、床を拭くところまでやらせないといけない。子どもに教えるなら教える、親がやらないならやらない、と決めた方がいい。
やった経験はあるけれど、実際にやらせるとできないことはよくあります。給食の味噌汁をすくっている姿やしゃもじでご飯をよそう姿を見るだけで、慣れた手つきだな、家でやっているんだな、というのがわかりますね。親は上手だから、子どもは何もしていないけれど、やった気にさせて成功体験を積ませることもできる。でも、それはどうなの?と思います。

失敗は悪ではない。失敗をして困った経験から学ぶ
――親が口出しせずに、覚悟を決めて、子どもにやらせてみる、ということですね。でも、子どもが失敗しないように、つい、親が先回りしてしまうこともあります。

ぬまっち 失敗は悪ではないので、一生懸命何かをしようとして失敗したのであればいいと思います。
僕は家庭科の時間にキャンプをして、最初に3日分の食材を渡すから好きに作りなさい、というのをやりたいんです。初日に焼肉をして、最終日に具がなくなってしまい、ルーだけの素カレーを作ることになったら、めっちゃ面白くないですか(笑)。
そのとき、僕たちが初日に「3日目のこと考えている?」という必要はない。子どもが失敗をして困った経験から、どういう風にしたら失敗しないか、と考えるようになる。大人だって、そうやって学んでいると思います。
でも、今の風潮は、3日目までに食べ切ってしまってかわいそうだから具をあげるよ、となってしまう。学校でも、給食で自分の不注意でパンを落としたら、パンを渡しています。アイスクリームショップでも子どもが落としたら、新しいものをくれるでしょう。黙っていてもたくさん与えられる世の中だけど、本当はダメだと思います。