シッキーは、その時の心境をこう続ける。
「なぜか急に心がグンと落ちてしまった。全国大会に出場するという目標に向かうには、1人では無理だよね。仲間がいたり、先生やコーチがいるから目標に向かうことができるんだからね。それなのに、仲間がいないんだと分かった瞬間、落ち込んじゃった。当たり前のようにいた仲間がいなくなった瞬間、何もかもがすごーく遠くになっちゃった……。それで、もう、サッカー続けるのも諦めようかな、と思った。学校に行くのもやめて、サッカーもやめようと本当に思った」
息をのむようにシッキーの話に集中する子どもたちに向けて、さらに心境を語る。
「本当に苦しかった。仲間がいなければ何も面白くないんだな、と。仲間がいるからこそ、次も頑張れる。負けたときもみんなで悔しがって、次のことを考える。勝ったときはみんなで喜ぶ。そういう仲間がいなくなった瞬間、もう無理かな、やめようと思ったんだね」
友達の救いの手
シーンと静まりかえった教室で、シッキーは「でも、その時に助けてくれたのが……」と続けながら、黒板に大きく「友達」と書いた。
「なにもかも嫌になったシッキーを救ってくれたのは、友達でした。同じサッカーチームの仲間でクラスも一緒だった友達が、2人組でやる練習のときに『一緒にやろうよ』って声をかけてくれたの。その瞬間、本当にスゴくうれしかった。もしかしたら、その友達はシッキーに声をかけたことによって、自分がいじめられるかもしれない。でも、その友達は勇気を出して、シッキーに声をかけてくれたんだね。その後、3人組の練習になると、もう1人、同じクラスの別の友だちが『オレもそこに入れてよ』と入ってくれた。それからちょっとずつ変わっていって、サッカーの練習で『一緒にやろうよ』って言ってくれるようになっていった」
サッカーチームだけではない。クラスのいじめも次第になくなっていった。
「最初に声をかけてくれたサッカー仲間が同じクラスだから、学校に行ったときに『おはよう』と挨拶をすれば、向こうも『おはよう』と挨拶してくれるようになった。そのうち、少しずつ無視する人は少なくなっていったんだね。シッキーに話しかけてくれるようになったし、班の相談でも、話ができるようになっていきました」
いじめについて、シッキーはこう締めくくった。
「サッカーの練習中に最初に声をかけてくれた友達には、大人になった今でもシッキーが一番、感謝している友達と言ってもいいかもしれない。シッキーがこの話をしたのは、シッキーの気持ちというよりも、友達のほうの気持ちを覚えておいてほしかったからです」
これから生きていくのに必要なこと
夢トークの前に体育館で行われたゲームの時間のときの子どもたちの様子を振り返りつつ、式田さんは続ける。
「体育館で初めて出会ったシッキーのことみんなは仲間はずれにしないで、笑顔で仲間に入れてくれたよね。女の子が『大丈夫? 疲れてない?』って声もかけてくれたし、シッキーはそれで元気になりました。こんなこと、当たり前のようでなかなかできないことだよね。このクラスのみんなは、優しさや勇気といったスゴいパワーを持っている。みんなが持っている優しさとか勇気というパワーは、どこかで困っている人、つらい目に遭っている人を助けることができる。何かそういう人に出会ったら、そのパワーを自信を持って使ったほうがいいよね」
実は、最初に声をかけてくれた友達も、プロサッカー選手として活躍した人物なのだという。そのことを明かしつつ、式田さんは続けた。
「勇気や優しさのパワーは、みんながこれから何か目標に向かうとき、これから生きて行くなかで必ず大事なものになっていくから。みんなが、シッキーに最初に声をかけてくれた友達の気持ちをシッカリと忘れずにいてください。自分が持っている勇気や優しさのパワーをいつまでも忘れずに、これからもしっかりと進んでいってください」
【後編に続く】
(取材・文/國尾一樹)
