首都圏の中学受験は、国語・算数・理科・社会の4科入試が主流です。しかし、大手受験塾のカリキュラムが、国語と算数に比べて理科と社会の授業数が少ないことや、各校の入試が国語と算数は100点満点に対し、理科と社会は50~80点満点と配点が小さいことなどから、それほど重要科目ではないと思われがちです。そのため、テスト前や入試直前期に集中して暗記をすればなんとかなると思っている家庭は少なくありません。しかし、中学受験の理科と社会の出題範囲は膨大です。詰め込み学習にも限度があります。
「理科と社会が得意な子に共通するのは、幼少時代にたくさんの実体験をしていることです」。こう話すのは、中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1で社会を担当している馬屋原吉博先生。「子どもは自分の体験で得た知識はそう簡単には忘れません。理科・社会は私たちの生活と関わる教科なので、日常生活の中でも様々な体験ができますが、いつもと違う場所でいつもと違う体験をするほうがより記憶に残ります」
そこで、今回は「冬のお出かけ」を通じて得られる学びを社会編・理科編の2回に渡って紹介します。冬休みのお出かけシーンで、ぜひ参考にしてみてください。
帰省や旅行は地理の学習を深めるチャンス 「ドカ雪ってこういうことか!」

冬休みはお正月を挟むため、実家に帰省したり、スキーやスノーボードなど冬ならではのレジャーを楽しんだりすることができます。どこかへの遠出は新しい土地の気温や降水量を肌で感じられるチャンスです。
馬屋原先生はこう話します。
「中学受験の社会入試で必ず出題されるのが雨温図の問題です。雨温図の問題は、特徴のあるいくつかの雨温図を見て、それがどの都市かを答えるのが王道。中でも必ず登場するのが、新潟か金沢の雨温図です」
「新潟や金沢の気候は、冬の降水量(=雪)がとてつもなく多いというのが特徴です。ところが、その割に気温は0度を下回りません。これは日本海側の気候の特徴です。ですからいくつかある雨温図の中で、12~1月の降水量が飛び抜けて多く、気温が0度を下回っていないグラフがあれば、それは新潟か金沢と判断していいでしょう」
「これは塾で学習する内容です。しっかり覚えておけばテストの得点にはつながりますが、最近の社会の入試問題は、雨温図を見て都市名を答えるというシンプルなものではありません。雨温図にとどまらず、該当する都市の農業や工業、人々の暮らしや文化まで幅広く、総合的な知識が求められます。総合的な知識というのは、『○○は、○○だから、○○だ』といったつながりで覚えることが大切です。そのためには、そのキモとなるものを五感で感じることが大切。例えば新潟について知りたければ、その特徴を表す12~1月の降水量が最も多い時期を訪れてみるのが効果的です」
「塾では『雪が多い』と習いますが、その多いとはどのくらいの量なのか? 数字を見るだけでは分かりにくいので体で感じてみましょう。そうすれば『ドカ雪ってこういうことか!』と覚えることができます。人は体で覚えたことはそう簡単には忘れません」
「また、新潟では伝統工芸が盛んですが、それはどうしてでしょうか? 答えは、冬に雪が多くて農業ができないからです。これも塾で習いますが、ただ教科書を読んで覚えるのと、『そりゃそうだ、こんなに雪が降ったら農業なんてできないよ』と自分で納得するのとでは、その後の知識の定着が大きく変わってきます」
「すべてを学習につなげようとする必要はありません。街をぶらぶらと歩いてみるだけでも楽しい発見があるでしょう。例えば、雪国の信号機は横向きではなく、縦向きになっているものが多いのはなぜでしょう?それは信号機の上に積もる雪の量を減らすためです。もっとも、最近は超薄型でひさしの無いタイプの信号機が増えていて、こちらは横向きで統一されているみたいですが……。札幌も冬は雪が多いけれど、新潟や金沢とは街の作りがだいぶ異なります。いかに地下鉄や地下街がありがたいものか身体で理解したうえで、その違いの理由を調べてみるのも面白いかもしれません。 こうしたことは、直接中学入試には出ませんが、街とその気候の特徴を知る手掛かりとなります。そして、いつもと違う街に行くと、色々な発見があることを知ります。この様々なものに興味を持って観察する姿勢が、社会を得意な子にします」
