映画について親子で大いに語った

で、ものすごく久しぶりに3人で映画を見に行くことにした。映画は一人で見るに限るかもしれないが、大人になった子どもたちと一緒に見るのも一興だと思った。鑑賞後、二人の感想を聞くのがとても楽しみだった。
何を見るかで迷った末、黒沢清監督の『散歩する侵略者』にした。三人とも監督の作品をいくつか見ていることが決め手になった。

次男は「黒沢監督は不気味な演出をしたり、人間の中の怖さを描いたりした作品が多いけど、冒頭のシーンから黒沢作品の世界観満載で、怖ぇーって見ていたら、声に出して笑っちゃうようなシーンもありで、映画全体をエンターテインメントとして楽しめて、不気味な演出の感じも消えていないバランスが良かったな。見終わった後によく考えると、まだまだ新たな発見のある映画だと思った」と言う。
長男は「当たり前になっていて、通り過ぎているものにもう一度気づく映画だと思った。家族や自由、仕事、そして愛。誰もが言葉として知っているつもりでいるそれらの概念を、この映画の宇宙人は奪っちゃう。概念を獲得した侵略者と、それを失い変化した地球人。両者の前後の差を見て観客も同時にその概念を見つめ直し、再確認する。どちらも、普段は単語という箱に押し込めて蓋をし、深くのぞいてこなかった大事なものを改めて暴かれるようなことをされる。それは映画体験において、とてもお金を払うかいがあったなと思える、ちょっとした学びの瞬間であり心地のいいストレスを感じた」と。
映画館は確かに心のサナトリウムだね。
そして「最近、職業柄、アイデアを出すためや外の空気を吸いに散歩に出かけることが多いよね。すると、タヌキに出会ったり、やたらと大き過ぎる家に気づいたり、迷宮のような住宅街に迷い込んだりと、もう20年以上過ごしている生活エリアが、散歩によって、自分の中で拡張し始めているんだよね」と自分の散歩の愉しみも話してくれた。
一つの映画について三人でこれほど真剣に話したことはなかったかもしれない。
いやー、映画って本当に面白いものですね。次回は、モアベターよ。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!
現役時代の映画評論家御三家に仕事でインタビューしたことが、ちょっと自慢の父であった。
