ハイキャリア世帯の教育熱は世界共通。ただ、海外は選択肢が豊富
小島:世界のどこでも同じことは起きていますよね。シカゴに住んだことのある知人から聞いたのですが、名門のシカゴ大学を目指す子どもの親は、やはり子どもに相当なプレッシャーをかけている場合が少なくないそうです。大枚をはたいて異国にボランティアをさせに行かせるということもあるようです。私が家族と暮らすオーストラリアのパースは、人口規模が福岡市くらいでシドニーやメルボルンと比べてのんびりとしたところですが、それでも子どもがいると話すと、二言目には「どこの学校?」と聞かれることもあります。
オーストラリアは四半世紀ほども不況知らずで、高所得者層は子どもを私立に通わせるのが当たり前です。どんな国でも社会の中である程度の所得を得ている人たち、いわゆる「上澄み層」の発想は同じだと感じています。
多様性は国の違いという横方向だけではなく、経済力の違いなどの縦方向にも広がっています。外国に行っても視野が狭ければ、肩書主義を脱することはできないでしょう。
古荘:ヨーロッパでも北のほうは縦の多様性を重視する考え方があるように思いますね。オランダなど北欧は、アカデミックの分野が合わないようなら手に職が付けられればいいと考えます。ドイツでも小学4~5年生で勉強を進めるか、それとも手に職を付けるか、コースを振り分けます。そのため、親も心に余裕ができ、バカンスなどを楽しめたりするのですよね。
―― 高学歴な子どもに育てなければいけないという変なプレッシャーが親にかかりにくいのですね。
小島:オーストラリアも日本の高1にあたる学年で、手に職をつける道を目指すTAFE(Technical and Further Education)か、大学かで進学コースが分かれます。日本では4大卒が上位だと見られますが、オーストラリアはTAFE卒でも二流とはみなされません。高所得の人もいます。さらに、就業してから大学に入り直す人も多いですし、18歳の春で人生の方向が決まってしまうというのではないですね。
―― 大学を目指す以外の道も用意されているし、いつでも軌道修正できる国もある、ということですね。日本社会には、そうした選択肢や進路の柔軟性が用意されていないから、親が追いつめられ、教育虐待に走りやすい、という側面があるのかもしれませんね。
小島:子どもは親の所属物と思うのか、それとも社会のメンバーととらえるのかについても、日本と海外には差があるように感じます。
古荘:同感です。例えばオランダは、1970年代まで小学生にも留年制度がありましたが、よくないということで取りやめました。実はそれを決めたのは、親世代ではなく子どもたちです。子どもたちから直接聞き取り調査をして、その意見が正しいと判断すれば国の方針をも変更します。
小島:子どもの声を尊重するということは、まさに社会の一員と認めているということですね。一方、日本では、子どもは「親の所属物」で、子どもに関する全責任を親に押し付ける傾向がありますよね。「好きで子どもを作ったんだから責任を取れ」と言われ、親たちが追い込まれやすいように思います。
―― 教育虐待が起きやすい背景として、無視できない問題ですね(3回目に続く)。
取材・文/本庄葉子 写真/鈴木愛子 ヘアメイク(小島さん)/中台朱美
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エッセイスト、タレント
東京大学大学院情報学環客員研究員
昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員

小児科医、小児精神科医、医学博士
青山学院大学教育人間科学部教授
